原油価格が50ドル時代に突入 2004年11月掲載
   
(一) 中国と印度の高度成長が主因

中国の高度成長は止まる所を知らない。 今年の粗鋼生産量は2億5,000万トンを超える勢いであり、鉄鋼王国として世界に君臨していた日米の生産量の合計を凌駕する状況となっている。 この急成長は鉄鋼原料に限らず他の資源も供給不足による価格高騰を齎している。 中でも最も心配されていたのが原油価格への波及であったが、それが現実となり10月6日WTIの11月物が史上最高の$51.85を付け50ドルの大台を超えた。

中国の成長にやや遅れながら存在感を強めているのが、これまで需要が目立たず資源価格や海運市況に影響を与えることが少なかった印度の新た動きである。 原油の輸入量が中国に続き急増している。 今年の原油輸入増の1位は中国の約50万bpd、2位が印度の30万bpd強,3位がEUと米国が約30万bpd、5位がその他のアジア(韓国と日本はほぼ前年並み)の約20万bpd増である。 
オイルショックの主因が日本の高度成長に伴う石油需要の急増が主因であった様に中国と印度とアジアの計100万bpdの需要急増は50ドル原油の到来は当然の帰結である。
   
(二) オイルショックの再発の可能性

戦後の経済現象に於けるショックにドルショックとオイルショックがある。 何れも市場の実態を反映させない価格を人為的に維持したこと対する市場の反乱であり矛盾の破裂であった。今回オイルショック発生の可能性が少ないと言えるのは次の3の理由によるものである。

1) 原油先物市場の存在で人為的な価格維持とはなっていない。
2)
今回の価格上昇から来るインパクトは「物価上昇とドル価値下落で実質ベースでは現在の50ドルは70年代の$10ドルと大差ない状況である。 その意味でパニックは無用である」との指摘通りと思えることである。
3)
日本などの先進国はオイルショックの経験で省エネや備蓄が進んでおり影響は当時より軽微で済む。 
但し、問題なのは、この高価格原油が石油需要急増中で海運市況に大いに影響を与えている新興の中国と印度と世界最大の石油消費国である米国への影響と言うこととなる。パニックを引き起こす様なショックは発生しなくてもボクシングのボディブローの様なダメッジを与えることとなると思われる。
   
(三) 原油価格の高騰による海運への影響
海運への影響は中国と印度の成長率低下から来る荷動き減の間接的な面と価格高騰に伴う石油消費減による直接的な石油の荷動き減の両面がある。50ドル原油が現れて間がなく落着くべき価格水準も不透明であることで予測するには時期尚早であるが、1年前からの海運ブームに対するマイナス材料であることは間違いない。このマイナス材料がどの程度の時間を経過して物流減となるのかは、本来であれば半年程度の時間的猶予があるが、これも原油価格の水準次第であり、効果が現れていない中国政府の経済抑制政策次第となる。 今後の推移を注視したい。
   

 

 

海運市況雑文(No.46-July/04)−中国向けブラジル産大豆問題 2004年8月掲載
    中国によるブラジル大豆の揚荷禁止はドライの市況に少なからぬ影響を与えている。 南米の穀物輸出は3月から6月がピークであり、その間ハンディマックスを中心に上昇し、ピークオフと同時に夏枯れが始まるのが例年のパターンである。 処が、今年は4月30日から6月21日まで、中国が防カビ剤をコーティングした大豆の混入を理由に揚荷を禁止したため、この季節的なパターンが崩れた。 今回はこの問題を整理することとする。
   
(一) 背景と動向

5月末Silvaブラジル大統領が5日間中国を訪問した。 訪問の目的は中国とブラジル間の鉄鉱石・コークスの輸出入の協議もあったと推測されるが、主題は輸入停止のまま無為滞船中の30隻の取扱いである(6月上旬現在港頭及び船上に300万トン滞留している)。 輸入停止は0.2%のカビ防止の混入容認をゼロに法律を変更したことによるものである。

ブラジル側は受取り拒否を価格引下げ目的としたものであると見なしている。 (現実に7月渡しの貨物が、6月初めまでの1ヶ月間でシカゴの取引価格が22%低下した。)

中国側は、今年早々に鳥インフルエンザ再発による国内の需要減と大豆の国際価格が一部軟化したとは言え高止まりしていることと、菜種などの競合製品があるため、製油業者が高コストに耐えられないことによるものである。
   
(二) 中国大豆輸入の傾向と価格修正の必要性

98年以降は需要を自国産でまかなえなくなった。 実績・予想は次の通り(,000MT);
00/01 00/02 00/03 00/04(予想) 00/05(予想)
13,350 10,410 19,289 (21,550) (31,500)
以上の様に中国需要増を基点とする鉄鉱石に次ぐドライ市況へのプラス要因として期待を集めていた。 処が、米国の不作、北部の長雨でブラジルの生産量が5,600万から5,000万トン、アルゼンチンが旱魃のため3,700万が3,450万トンへの減量修正で、価格が高騰し「3月には16年ぶりの$10台(1ブッシュル)となった。」 海上運賃の暴騰と相俟って非常に高い大豆となった。 高所得の日本でも搾油業者による値上げの困難さが話題となった。
   
(三) 運賃市況への影響

今年は中国の政策的な輸入禁止と輸出余力減で春のハンディマックス中心とした運賃の上昇とはならず逆に軟化し、通常の季節的パターンとは異なった。 輸出の活況時期が後ろに分散化され夏枯れが早く表れた。 同時に本来の夏枯れが軽微となった。 この輸出の分散化は秋の荷動増と複合して例年より活況を齎す余地を残した。 但し、鉄鉱石の荷動きが市況を左右し、大豆問題は副次的な要因に過ぎないことは認識して置くべきである。
   
(四) 終わりに

1) 中国の不公正(unfair)とも言える輸入政策で海上運賃も関連商品(大豆)の価格が変動したが、一連の動きで最も困るのはこれを安易に容認する風潮の醸成である。 これは前例を創り慣習化への道を開き兼ねないからである。 そしてこの不公正な手段が鉄鋼などの原料の輸入契約・中短期の用船契約などに波及しないことを希望したい。
2)
供給不足による原材料部門のインフレ傾向と過剰生産による消費財のデフレ傾向が、中国経済の不安定の1である。 即ち、原材料の価格上昇を消費財の価格への転嫁が困難から来る生産の縮小であり、鋼材に見られる様に商品によっては輸出ドライブの加速である。 大豆の輸入禁止問題はこの生産縮小の先駆的な例なのかもしれない。
 
参考資料:-輸入食料協議会報、SSY/Monthly Review, Clarkson/Dry Bulk Trade Out-look(何れも6月号)、6月22日日経
   

 

 

30年ぶりの海運市況暴騰に就いて 2004年5月掲載
    今回のドライ市況の暴騰は、オイルショック前のタンカーの暴騰以来30年ぶりと言われている。 この2回の暴騰のうち前者は日本が主因であり、後者は中国が原因である。 何れも経済大国として登場する潜在力を持っている両国の高度成長によるものである。今回は日本の高度成長が齎したことと中国の高度成長が今後何を齎すのか海運の不定期船の立場から整理することとする。
   
(一) 日本の高度成長が齎したこと

1) 洞海湾の衰退−筑豊炭の積出と八幡製鉄所の輸送基地として日本の心臓と言われた。
 
基礎素材たる鋼材需要増に応えるため、大型臨海製鉄所が必要となり、15,000dwt以下の船舶しか入港できない洞海湾に面していた八幡製鉄所は大規模一貫製鉄所の主役の座を降り、千葉を手始めに扇島まで近代的な数多くの大型臨海製鉄所が誕生した。
エネルギー革命と言われたエネルギー源を筑豊炭などの国内炭から海外の石油に一挙に切替えられた。 大型タンカー入港可能な製油所が各地に建設され、高度成長によるエネルギー急増に対応した。 洞海湾からの筑豊の石炭の積出しは姿を消した。
2)
海運・造船・港湾インフラの近代化に寄与−日本経済の国際競争力強化に寄与。
 
船腹の需要急増と船舶の近代化と大型化を齎し、日本を海運・造船大国の地位を築かせた。 鉄鋼を加え質量共に世界最高水準の強固な三角関係、即ち、原料輸送契約(鉄鋼)→新造船発注(海運)→厚板購入(造船)を形成した。
豪州を中心として、大型船が入稿可能な港湾設備を持った原料炭・鉄鉱石の新規の鉱山が開発された。
3) 歴史に残る2のショックを惹起−市場の趨勢を無視した人為的な体制の維持が原因。
 
1ドル360円時代の終焉である1971年のドルショックである。 これは日本と西独を中心とした経済成長が米ドルを弱体化させ金との交換性維持が困難となり停止された。
1973年の第4次中東戦争が切掛けで発生したオイルショックである。 その背景は、日本でエネルギー革命と言われ他に例がない石炭から石油に一挙に切替えたことと高度成長とが相俟って原油需要が急増した。 然しながら、需要増の趨勢を反映しない低価格に据え置かれていたことに対する反動として発生した。
   
(二) 急成長中の中国は何を齎すのか−その問題点

1992年南巡講話を経済成長の開始時期と見れば、期間が短く日本のような近代化や大型化などの質的な変化は未だ見るべきものがない。然し、急激な量的拡大も混乱を招くが、次の様なショックの温床となりうる人為的・未熟体制が維持されていることである。

1) 人民元のドルペック制である。 貿易収支の黒字の拡大は過剰流動性となり鋼材等の在庫投資や不動産の過剰投資を生んでおり、将来米中の貿易摩擦の政治問題化である。
2)
国営企業の存在もあり、市場価格が生産量を調整する国内市場の不在懸念である。 これは産業配置・構造を奇形にするだけではなく、市場価格による生産調整機能が働かない危険性がある。 現在の300-500立方米の小型高炉への大量投資は奇形の発生であり、鋼材の異常高値も市場の調整機能の欠如の所為とも言えそうである。
   

 

 

暴騰が続くドライ・マ−ケットに就いての私見 2004年3月掲載
    現在のドライ・マ−ケットは「バブルではないのか」、「何時まで続くのか」と言う質問が多い。 これに対する回答が難しくしているのは、現在のマ−ケットが中国経済の急成長と言う未経験の要因(詳細(2)参照))によるものであるからである。 中国経済が分らないと海運市況予測・分析が困難である。 この解決策は海運人より中国に詳しいエコノミストに分析をお願いするしかないと言える。 今回は冒頭の質問に対して20年来の勉強仲間であり、先生でもあるエコノミストの中前氏の調査を参考に回答を試みることとする。
   
(一) バブルではないのか − 現象はバブルであり、市場が時間の経過と共に確認

ケープサイズの傭船料$105,000/day、ガルフ積み穀物運賃$70.50、春竣工予定の172,000dwtBCの売船主が8,000万ドルと買船主が7,200万ドルでのリセール交渉決裂(船価は3,650万ドル)等はバブルである。
   
(二) 海運市況暴騰とバブル化の背景

1) 実需面では、周知の中国の粗鋼増産・鉄鉱石輸入急増に加え、副次的的な要因として中国の鉄鋼増産による原料炭と電力不足による一般炭が、国内消費増・輸出頭打ち・輸入増と物流に変化が生じている。 ここに来て単年度ではあるがトンマイルを大幅に増やす中国の穀物不作である。
2)
実需と乖離してバブルになり易い要因は
 
最大の心配は不動産や鋼材市場等の価格による生産調整機能を持つ国内市場が健全でない疑念が残り、過剰生産と産業配置の奇形化を齎す。
需要を人口13億人で計算する過剰見積。
華僑・華人資本に見られる個人主義的実利主義と、「ねずみを捕まえる猫を良とする競争を過剰に善とする傾向」とが過剰投資を齎す。
2000年に経験済みのタンカーとは違いドライの市況高騰は初体験であり不慣れと遅れた分振幅が拡大。
ドル安でのドル・リンク制が輸出産業の活況を齎す。
3)
過剰投資と言われる3部門への中国政府の加熱抑制策概略 (中前国際研究所調査)
 
不動産部門へは、6月に不動産に対する融資の厳格化、それ以降矢継ぎ早に3回、上海市を中心に不動産への投資抑制策が発表。
鉄鋼へは、金融政策を含め経済全般に対する抑制策となっているが、10月には電力不足と原材料価格の急騰を抑えるために鉄鋼、自動車、アルミ、セメント等の投資抑制策を示唆。
自動車産業へは、9月に競争激化を呼ぶとして自動車の在庫増の警告が出された。 昨年の自動車の売残在庫は50万台と言われており、今年の在庫増が非常に危惧される。  尚、昨年の生産・販売台数は前年比100万台増の425万台(”新華網)と生産台数439万台(6/1日経)の2の報道があり、生産台数は425〜440万台となっている。
4)
何時まで続くのか − 市況暴騰の継続性
  中国の潜在需要が巨大であっても飽くまで「潜在」であり、これほどの投資急増に需要が対応できるとは思えず調整は不可避と考えるべきである。 上記3部門は過剰生産・在庫が顕在化し、海運市況に影響を与えることとなるが、その時期は抑制策の効果次第である。 粗鋼生産減産政策が無視された96年の例があり、加熱抑制策が功を奏するのか不安が残る。

効果があれば、 南米の穀物輸出減とインドのモンスーンが始まる時期でもある夏枯れが切掛けとなって市況の節目となる可能性がある。
効果がなければ、インド鉱石輸出休止中の代替ソースへの配船が増えることとなり、更に半年以上遅れることとなると思われる。
   

 

 

ごあいさつ 2004年1月掲載
   

新年明けましておめでとうございます。
本年より日本海運集会所様のご好意により本誌「海運」に私共日本シップブローカーズ協会のページを隔月設けさせて頂く事に成りました。主として協会の月報を掲載させて頂く事により、私達ブローカーから見た現在の海運市況や今後の見通し、或いは又、海運業界活動に関する雑感等を読者の方々にお届けしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 私共の「日本シップブローカーズ協会」と言う名前を初めて耳にされる方もおられると思いますのでこの機会に簡単に紹介させて頂きます。

 今から遡ること44年前に、すなわち1959年8月に我国の船会社各社の集荷や船舶の傭船等の仲介を業とする在京59社により「東京海運仲立業組合」が設立発足されました。その後1971年4月に関西の会社も交え、「日本海運仲立業組合」と改名し、往時は89社の組合員を擁し、親睦、互恵互助組合として長い間活動して参りました。そして近年、仲介業の仕事も多岐にわたり又、その活動も国際的、世界的規模に拡大した事に伴い、「日本シップブローカーズ協会」、英語名“JAPAN SHIPBROKERS ASSOCIATION”と改め今日に至っております。協会の組織は総会で選出された15名の理事と、その互選で選ばれた1名の理事長と2名の副理事長から成る理事会を最高意思決定機関として運営されており、国土交通省の認知を得ている業界唯一の任意団体であります。

 今日、海運業の益々の国際化と情報化時代を迎え、私共シップブローカーの仕事も単に傭船のみならず、造船、売船の仲介等、真に多岐に亘り、又会社の数も年々増加いたしております。一方当協会の会員数は現在53社で未加盟の会社の数は恐らくこの倍以上と推定されます。

 我国のシップブローカーはこの分野での先進国である欧米の同業者に比べ、情報量、力量、識見等、未だ未熟な面がございます。私共は一社でも多く当協会に加盟していただき、お互い切磋琢磨し資質の向上を目指しながら各社が、我国海運界の更なる発展に帰依できるよう少しでもお役に立てればと思い努力をして参る所存です。

 何卒、当協会の育成に関係各位の皆様の深いご理解とご協力、又一層のご支援を賜りますよう心よりお願いする次第です。