理解し難い2010年のタンカー市況の回顧と2011年の展望 2011年3月掲載
    2010年のタンカー市況は、前半はWS80前後を上回る歓迎すべき水準を維持したが、7月後半に入ると軟化を続け、11月にWS60をわずかに上回る以外は低迷が続いた。 この前半と後半の落差をもたらした要因があるはずである。 今回は、2月号でドライバルカーの市況の回顧を取上げたことで、バランス上タンカーも取上げる事とし、簡単な展望を試みることとする。 整理方法としては前半と後半の落差の原因を中心に分析することとする。 但し、9月号と11月号でタンカー市況に就いて取り上げており、内容が重複することは避けられないこと予めご了承願いたい。
   
(一) 歓迎された前半の市況概略
1) 船腹需要側
i)
資料3参照、中国の原油輸入先が遠距離ソースのアフリカ・中南米が約40%を占めている実績により量と共にトンマイルを飛躍的に増加させた。 このことが需要側から見た上期のタンカー堅調の最大の要因であった。
ii) 対前年比で日欧米の減少分を中国が穴埋めしたからである。 但し、2007年対比ではマイナス1.62mbpdであり本格的な回復とはいえない。
iii) 中近東に近中国と比較上影響は小さい印度も経済の成長に伴いアフリカ積の増加傾向やカリブ積みの原油の引合いも散見され無視できない存在となっている。
2)
船腹供給側
i)
SSYのmonthly reviewでは、VLCCの隻数の前半の増加が僅か9隻であったことで供給圧力が予想より小さかった。
ii) Storage船に就いては、Gibson社によれば、1月初め37隻だったのが増え続け6月末には10隻増の47となりこの船腹供給減が堅調の最大の要因である。
    (二) 低迷が続いた後半のマーケットの背景
1)
船腹需要側
i)
中国の原油輸入動向で左右された。

・後半の中近東原油が43%から51%へ増加したことと遠距離ソース(アフリカと中南米)からの輸入比率が40%強から36%へ低下しトンマイルを短くしている。
・ 資料2参照、7月と10月の市況の低落は中国の原油輸入量が2,000万トンの大台を割ったこと、特に10月は1,600万トンと急減、中でも中南米からの輸入量が月平均の175万トンから38.3万トンへ急減したことによるものである。 総輸入量自体後半の対前半比2.2%増加しているにも拘らず後半に低落したことは理解に苦しむ所である。
ii) 気候的要因としてラニーニャの存在を無視できない。 10月号「エルニーニョからラニーニャへ」参照、FTはラニーニャにより北半球の温暖な冬を予想したが、日本(中国北東部と韓国を含む)は実績から見て厳冬となると予想した。 結果は欧州を含め世界的な寒波が10月下旬早々に到来した。 11月のWS60超えは寒波によるものと思われる。
2)
船腹需要側
i)
Storage船の動向が低迷の最大の要因である。 資料3参照、7月初めの47隻が10月末には34隻減の13隻となった。 3ヶ月でこれ程供給増となれば市場での吸収は不可能である。 尚、12月末は14隻、2月3日現在13隻で変化は見られない。
ii) 供給過剰問題

 ・SSY者は前半9隻、後半は5隻増で14隻純増
 ・Clarksonは前半11隻増、後半3隻減で8隻純増
 ・Drewry社は1隻のみの純増

従って、後半の純増が少ないことはSHの市場からの排除効果があったと思われる。 他方、供給過剰が後半の市況低迷をもたらしたとは言い難い。
    (三) 結びとして – 展望
2010年は以上の通り、Storage船の動向と中国の輸入動向が市況を左右し、冬場に世界的な寒波の襲来で若干の引き締まりを示した。 然しながら、上記の分析で違和感を覚えるのは、船腹供給側からは後半の低迷は説明が困難である。 理由は前半のMEG積みの成約数は102、後半は107であり需要減ではない、SHの成約数(全てスエズ以東向け)も前半は80、後半34とSHによる供給圧力が弱まっており、VLCCの純増も後半は減少しているからである。 換言すれば、後半の低迷は今年の過剰船腹を予言しているかもしれない。 以上を踏まえ簡単に展望を試みるとこととする。
1) 船腹供給側から
i)
今年の新造船の竣工予定に就いてClarksonが88隻、SSYが83隻と何れも80隻を超えている。 予定通り全船竣工するとは思わないが、供給圧力は無視できない。
ii) ケープサイズの市況悪化で、バルカーへの改装は減少することとなろう。 
iii) SHのVLCCの排除が進展している。 ちなみに2月11日現在、3月6日までのMEGへの入港予定船43隻、そのうちDH36隻、SH7隻(16%)となっている。 SH7隻のうち4隻は期近船(prompt tonnage)であり成約が困難となっており排除が早まりそうである。 但し、市場に参入中のSHは10隻程度といわれており、数には限定される。
iV) 前半が歓迎すべき市況であったことがスクラップを減少させたが、今年は順調に進む筈である。 これを推進する要因としてスクラップ価格が$500を超えていることもある。
2)
中国の原油輸入動向に左右されるとしたら、これを予測することは不可能に近い。 遠 距離ソースの原油輸入が減少した理由や輸入増減の理由がはっきりしないからである。 恐らく原油価格や運賃の水準も影響していると思われるが、今後の研究課題である。
3)
 全体的な傾向としては、ドライバルカーは中国の鉄鉱石輸入量が昨年マイナス1.4%となったことで暴落気味となったが、これと比較すると安定的だと思われる。 然しながら、過剰船腹は避けられず、上昇には鈍感で低落には敏感な動きに終始すると思われる。
4)
 忘れていけないことは、スエズ運河とスメドパイプライン抱えているエジプトの政治不安であり、それが中近東の産油国に波及することである。
 
資料1
 
資料2

 

Jan/Jun

%

Jul

Aug

Sept

Oct

Nov

Jul-Nov

%

MEG

51,808

43.9

9,660

10,015

11,284

9,538

10,727

51,224

51.0

Africa

37,486

31.9

4,545

6,340

7,417

3,856

2,404

27,533

27.3

中南米

10,084

8.5

1,865

2,127

1,932

383

1,916

8,711

8.7

総輸入量

117,965

100

19,002

20,902

23,288

16,391

20,908

100,491

100

 
資料3 Sorage船の推移表 (Giboson’s Report)
1月

2月

3月

4月

5月

6月

前半平均

37 40 38 40 40 47

40.3

7月

8月

9月

10月

11月

12月

後半平均

40 29 18 13 14 14

21.3

   
 
  ラニーニャに翻弄された2010年のドライバルカー 2011年2月掲載
    ドライバルカーの市況は、印度・中国の順調な経済成長を受け原燃料や生活水準の上昇に伴う穀物、主として大豆の輸入増が継続し底堅い市況を予測する方が多数意見であった。 結果はほぼ予測通りであった。 然しながら、新造船による船腹供給増と世界経済の不透明感で、冬を迎える前の小春日和のマーケットであったと言う意見も根強く残っている。

歴史は繰り返すと言われているが、海運も同じである。このことは記憶して置くことが市況の予測と判断に大事なことであることを意味する。 今回は、将来の為の記憶に留め置くべき事象に光を当てることを中心に回顧として取り纏める事とする。 尚、説明を容易にする為、添付資料1のドライバルカーのBDIと船型毎のIndexのグラフを参考にして説明をすることとする。
   
(一) 前半の推移の概略は次の通り(詳細は2010年の8月号参照)
世界経済は次の様な不安材料や問題点を抱えている。 これらは、直接・間接的に海運の不定期船部門(タンカーとドライバルカー)に影響を与えることとなる。
1) 資料1.参照、ケープサイズの傭船料が中型船型のそれより下回る逆転現象が再三見られパナマックス以下の中型船型主導の市況であった。 即ち、BDIが3000を越す水準を維持できたのは中型船型によるものである。 汎用性の高いこの船型主導の市況の特徴はブーム期間の短期化と高低の振幅の軽減化である。
2)
中型船型主導の背景
i)
ケープサイズの主要貨物である中国の鉄鉱石の輸入減が顕著となった。 1月〜5月の対昨年の6月〜12月の月平均の数量と比較すると約293万トン5.3%の減少となった。
ii) 中国と印度による電力炭の輸入増が主因である、記憶に留めて置くべきことは、5月エルニーニョ終焉と同時に中国南西部の旱魃(09年4月末から10年5月末、但し、10年の10月から一滴の雨も無かった)が解消し、電力炭の輸入が減少に転じ市況を軟化させたことである。

ご参考までに、08年末の時点で、中国での水力発電能力は172 million KWで世界最大であり、中国の電力の21.6%占め、旱魃となったこの地域の水力発電能力は中国の44.5%を占めている。
iii) マーケットに折込み済でインパクトは少なかったが、中国の大豆の安定的な輸入増も背景にあった。 速報値では10年の輸入は前年の4,255万トンから28.8%増の5,481万トンと年間を通して順調に増加した。
    (二) 後半の推移と年間の回
1)
資料1参照, 後半の推移とその背景は次の通り。
i)
夏場にパナマックスの低落が目立った。 これは中国の南西部の旱魃解消に伴う燃料炭の輸入減であり、印度のモンスーンによる季節的な要因である。
ii) 10月予想に反してケープサイズの独歩高となった。 これは印度による鉄鉱石の輸出禁止の動きに対応して10月後半世界最大の鉄鉱石の山元であるブラジルのValeが、中国向けの鉄鉱石を$30〜$32(それまで今年の最高値は5月の$31.75)で短期間に8隻ほどを集中的に成約し市況上昇の先駆けをし、それに呼応するかの如く豪州のRio TintoとBHP Billitonが中国向けを$12で成約し高水準を一時的に定着させた事によるものである。
iii) 年末には全船型が低落。年末には全船型が低落
  • 印度のモンスーンの長期化で水力発電の稼働率が上昇し電力炭の輸入減をもたらしていること、印度鉄鉱石の粉鉱(水分が多いとに荷崩れが起こり転覆して沈没する危険が高く39日で3隻沈没、44人が死亡)の積み出しが停止されたこと、塊鉱の輸出も遅れ気味であること、更に、印度のカルナータカ州による鉱石輸出禁止の動きがあり、パナマックスのマーケットにマイナス要因となっている。
  • 最も影響を与えているのが11月末から豪州の北東部の最大の産炭地であるクイーンスランドの豪雨で部分的に不可抗力宣言がなされた。 豪州の原料炭(鉄鋼のバースはケープサイズが入港可能)の主たる輸出地域だけにパナマックスに限らずケープサイズにも悪影響を与えている。 他方、米国の原料炭の輸出が欧州向けを中心に急増しており10年10月迄の輸出量は54%増の2,290万トンとなっていた所に豪州の洪水で日本も米炭手当てを始めており更に増加するものと思われる。スポット市況の西高東低に拍車をかけている。 但し、西高がBDI低落の歯止めとなる程の上昇はしていない。
  • 市況が軟化すると供給過剰感の強まりから悲観論が勢いを増すが、、昨年末から新造船による供給圧力懸念を強めている。 特にケープサイズに悲観論が強い。 
Clarkson社は「ケープサイズは現存船腹が1,118隻(11月時点)で、竣工量は207から210隻(契約隻数は350隻と言われたがその60%)となった」と報じている。 一方、FTが1月中旬に「SSYが今年のケープサイズの竣工量は241隻で現存船1,000隻強の約25%の新造船が竣工の予定だ」と紹介し豪州が回復しても供給過剰は変わらないと警句している。
    (三) 2010年の市況で記憶の留めて置くべき事
1) エルニーニョとラニーニャが発生した年 (10年10月号参照)
i)
エルニーニョの影響 中国の南西部の旱魃である。 電力炭の輸入増を齎し中型船主導の市況を演出した。 農業の不作もあったが、米作地帯の旱魃だったので海運市況への影響は殆どなかった。
ii) ラニーニャの影響(寒波の問題は取上げないこととする)
  • 旱魃による小麦不作でウクライナによる輸出規制とロシアによる輸出停止である。
  • インド洋を含め、太平洋と大西洋の最西端地域の豪雨多発である。列記すると;
    パキスタンの豪雨、中国海南島の50年振りの豪雨、奄美大島の史上最高の豪雨、11月末からの豪州東北部のクイーンズランドの豪雨であり、カリブの電力炭の最大の生産国コロンビアの豪雨であり、1月に新たに発生したブラジルの洪水である。 断言できないが、モンスーンの長期化(降雨を伴う)による印度の粉鉱の輸出減も積出港がインド洋の西側でありラニーニャ現象の一部と言えない事もない。 
iii) 以上の気候現象で特に記憶に留めて置くべき現象は
  • 鉄鉱石では印度のモンスーン(降雨の)の長期化
    石炭では、エルニーニョでは中国南西部の旱魃による電力炭の輸入増であり、ラニーニャでは、豪州北東部の洪水による輸出の混乱(disrupt)とインドの降雨による水力発電の比率増での電力炭の輸入減である。 コロンビアの状況も要チェックである。
  • ブラジルの洪水は発生したばかりで鉄鉱石の輸出には影響がなさそうであるが、大豆の輸出に影響が出るかもしれない。
2)
i)
中国に関しては単純ではなくなった年であった。
  • 昨年の粗鋼生産量(推測)は6,200万トン増の6億3,000万トンとなったがこの増産が維持可能か、 
  • 鉄鉱石の輸入量が1.5%減(=約900万トン減)の6億2,800トンとなったが、この減少傾向が一時的なのか、
  • 中国の国内産の鉄鉱石の増産が継続可能なのか等々が分析の対象となる。
ii) 中国の鉄鉱石の輸入減をEU-15,日本、韓国、台湾の輸入増の合計7.900万トンである程度の穴埋めされた年であった。 今年もその役割が可能か。
iii) 印度により鉄鉱石輸出抑制の始まりの年となった。 これが強化されると鉄鉱石値上で世界経済のインフレを助長することとなり、新造船価やスクラップ船価格の高止を齎す。
iv) 印度の輸出規制が強まれば、2010年が「鉄鉱石が投機商品であると同時に戦略商品となった年」だったと記憶されることとなるかもしれない。
   
 


  2011年の海運市況の留意 2011年1月掲載
    本来であれば1月号は、「回顧と展望」を書くことが通例となっているが、回顧を書くには資料が間に合わないと言うジレンマがある。 一方、展望の方も回顧を参考にしないと展望を描くことが難しい面がある。 回顧は月を改めることとして、今回は新年の市況に強い影響を与える特筆すべき要因のみを取上げ、留意点として整理することとする。 但し、将来の展望も留意点も経済予測が大事であり、海運から距離のある説明が増えること予め承知置き願いたい。
   
(一) 海運市況全般影響を与える世界経済
世界経済は次の様な不安材料や問題点を抱えている。 これらは、直接・間接的に海運の不定期船部門(タンカーとドライバルカー)に影響を与えることとなる。
1) 赤字財政を抱えたGIIPSが財政危険に曝されていることである。 「中途半端な貨幣と金融政策の統合」と言語と国籍が違うことによる労働力移動の困難性にこの統合の構造的な欠陥があると言われている。 この欠陥とは、「財政政策の不統一と為替相場の低落による不況脱却の道が閉ざされている」ことである。 目下の所、EU第4の大国スペインに波及することが最大懸念材料となっている。
2)
需要喚起を目的とする財政資金による景気刺激策の継続が困難となっていることである。 財政赤字の深刻化に伴う景気刺激策は金融緩和と通貨切り下げである。 特に、デフレが深刻化している日米が、金融緩和策を導入している。
3)
発展途上国は、バブル発生懸念とインフレ経済で金融引き締策を導入している一方、経済に占める輸出比重が高いことで引締策と相反する通貨安策を打ち出している。

● 外貨準備高が2兆5,000億ドルを越える中国が、「05年から08年に18%の通貨切り上げとなったが、それ以降はドルペック形で推移している」ドル安に連動する状態となっておりそれを維持していることである。 ●「台湾と韓国は為替介入で、外貨準備高は過去最大となっている***国内金融市場に過剰流動性を齎し、バブルの温床になると危惧されている」いる。 以上3項目で、海運へ直接の影響を与えるとしたら、日米の金融緩和であり、中国のドルペック制維持政策に見られる通貨安策である。 これは、人為的に通貨を低くしている。 矛盾が、近い将来波乱を呼ぶ危険性が高いことである。 余談ながら、中国・韓国の通貨安政策は日本の造船業に致命的な打撃を与えている。
    (二) ドライバルカーを左右する鉄鉱石に就いて
1)
昨年1月〜10月の中国の鉄鉱石輸入量は5億330万トンと前年比▲2.2%であった。
i)
中国の鉄鉱石の輸入減(粗鋼は順調に6,200万トン増)は、海上運賃も鉄鉱石の価格も暴落しても不思議ではないが、予想以上に堅調であり奇跡的であった。
ii) 輸入減は国内産の鉄鉱石の1億8,000万トン生産増で一部穴埋めしている。
2)
同じ期間の印度の鉄鉱石の輸出は前年の5,320万トンから▲12.7%の4,643万トンへ減少した。 この減少には2の理由がある。
i)
11月号で触れた印度(ゴアの隣接州)Kanataka州)による鉄鉱石の輸出禁止と
ii) 印度のモンスーンが例年よりより長く粉鉱の輸出が遅延していることである。 
この2の理由のうちモンスーンによる輸出減は明らかであるが、輸出禁止の影響がこの減少の中にどの程度の比重を占めているのか目下の所不明でデータの収集が必要。 印度の輸出減が定着化した場合、ケープサイズにプラス要因、パナマックス以下の船型にはマイナス要因となる。 この印度の鉄鉱石輸出の減少幅がどの程度に落ち着くのかが、今年のドライバルカーのマーケットを占う場合の最重要留意点となる。
    (三) タンカー市況(VLCC)に就いて
1) 昨年のタンカーマーケットに最も影響を与えたのは、Storage船(海上貯蔵船)の減少に伴う供給圧力であった。 昨年前半47隻あったのが、12月初めには35隻減の12隻へ、12月17日現在13隻となっている。 この34/35隻に達するStorage船の減少が、新造船の竣工と相俟って船腹供給圧力となり市況を低落させた最大の要因となった。 御参考まで、Storage船のコスト計算は下記の通り、
●200万バーレル積のVLCC 1日の傭船料を$35,000とする。
●原油$1の上昇は200万ドル価値が増加したこととなる。
●VLCCの傭船料に換算すれば60日弱(=$2,000K/$3.5K=57days) に相当する。 従って、VLCCのマーケットが現在のWS100以下であれば、原油のCIF価格に占める傭船料の比重が小さ故、タンカーマーケットがStorage船の増減への影響は小さい。
2)
中国のベネズエラ原油の輸入減がトンマイルを短くし、市況低落の一要因となった(10年11月号参照)。 重質油であるベネズエラ原油やブラジル原油(輸出に回している)は電力不足の中国では発電用としての需要がある筈である。 ベネズエラと中国の関係緊密化の傾向は継続すると思われる。
    (四) 特記すべき留意点
1) 世界経済の留意点
i)
日本や現時点での米国等の資金需要が少ない国での金融緩和は、景気回復への効果低く円キャリトレードやドルキャリトレードで新興国に流入する危険性が高いと思われる。 97年のアジアの金融危機の再来が危惧されるが、当時と違い資本移動の自由が規制されているとの事であるが、無視できない留意点と思われる。
ii) 金融緩和は海運市況に直接的な影響与え兼ねない。 海上輸送の太宗貨物である原油や鉄鉱石を投機的投資の対象となり荷動きに影響を与える。 FFAを通じて市況に心理的な影響をも与えることもある。 但し、この2大貨物が投機の対象となるにはファンダメンタルがそれを受け入れるだけの環境を持っていることが必要である。
iii) 最大の不安材料は、不定期船市場を左右している中国の外貨準備額が2兆5,000ドルを越え巨額化しているにも拘らず、実態的に「ドルペック性は維持されている」と言うことである。 これは、市場の調整機能を否定することでもある。 この歪・矛盾が、何処に、どの様な形で、どの程度の規模で、何時発生するかは、目下の所予測困難。 但し、過度の人為的な介入は市場の反撃を受けても不思議ではない。
iv) 中国・韓国・台湾は「輸出依存が高く、経済の安定の為、為替介入を行っている」と言われている。 海運と密接な関係にある日本の造船業に致命的な打撃を与えているが、中国・韓国の生産性の低い造船設備の削減を遅らせていることも事実である。
2)
タンカーの留意点
i)
Storage船の増減は、原油価格とその推移予想が重要である。 船主プラスのStorage船の傭船増は、底値の時、上昇期待感の高まり時等で決定されるからである
ii) 中国等のアジア諸国の中南米産の重質原油への需要動向である。
3)
鉄鉱石の留意点
i)
(i) 中国の鉄鉱石の輸入が778万トン減の6億2,000万トンとなった。 他方、国内産の鉄鉱石は1億8,000万トン増の10億6,000万トン(予想)となった。  この国内鉱石の増産傾向が輸入減の一因であり、重要な留意点である。 輸入減の2年連続は、新造船の供給圧力もあり、ドライ市況の暴落は避けられないからである。
ii) 新たな要因として、約10億トン(09年の実績では約85%が中国向け、5%が日本向け)の鉄鉱石輸出国の印度による鉄鉱石の輸出禁止の動きである。 ゼロになることは当分ないと思われるが、少なくとも印度の粗鋼が、今年以降、増産される分の鉄鉱石が輸出減となる可能性はあると思われる。 従って、印度の粗鋼生産量予想とそれに関連すると思われる鉄鉱石の輸出量が重要な留意点となる。 既に、印度鉄鉱石のスポット価格が$173と今期の価格を上回っており禁輸の影響を示唆している
5)
結びに変えて
世界経済に就いての比率が大きくなったが、それだけ不透明感が高い事と金融緩和は金融ファンドを一層攻撃的にし、バブルの温床を醸成し不透明感を増幅させる可能性があるからである。 又、最重要の船腹需給には殆ど触れていないが、冒頭で断った通り「特筆すべき留意点」として整理した為である事を申添えて置きたい。
   
 
  理解困難な今回の冬場のドライバルク市況 2010年12月掲載
   

タンカーと同様にドライバルカー市況の無視できない要因として、季節的な要因がある。 その中で、定番として認められているのが「夏枯れ」とその後の「冬場の堅調なマーケット」である。 ファンダメンタルに変化がない時は、市況変動の最大の要因となる。
今年のマーケットは、1億5,000万トン強の鉄鉱石の投機的在庫投資があると思われること(5月号参照)でケープサイズには良い材料が少なかった。一方、中型船型(パナマックスとハンディマックス)は印度・中国の燃料炭の需要増や中国の安定的な大豆輸入増でパナマックス主導のマーケットを予測した。 但し、昨年までの鉄鉱石輸送が主要のケープサイズ主導のマーケットに比べ 

  • 全体的にインパクトは小さく期間も短い。 
  • 夏枯れによる低迷が厳しく、逆に冬場の市況は堅調に推移すると見ていた。 

処が、冬場を間近に控えた10月後半、ドライバルカー(=ドライ)市況は8月ロシアの小麦輸出禁止の新たな要因が生まれたにも拘らず、ケープサイズの独歩高となった。(資料1)
今回は、ケープサイズ独歩高の背景に就いてコメントを加えることとする。 但し、その前に「夏枯れ」の定義が必要なので、この機会を利用して定義の見直しを試みる事とする。(一) 「夏枯れ」と「冬場の市況堅調」に就いて。
1) 夏枯れは暖房用の燃料炭の輸送減の時期
2010年の燃料炭の海上輸送量は鉄鉱石の10億3,000万トンに次ぎ第2位の6億3,000万トンと予想されている。 その動向はドライの市況に大きな影響を与えることは間違いない。 但し、従来言われていた季節的に荷動きが変動することはなっていない。 それは暖房を主とする北半球の日米欧の経済の低迷とエネルギー需要の沈滞と熱帯・亜熱帯に位置するアジア諸国の経済成長が冷房用の需要増の傾向が強まりつつあるからである。 既に、中国は「暖房用と冷房用のエネルギー需要は、拮抗しつつあるが、まだ、暖房の需要の方がやや大きい」と言われている。
第二次世界大戦前後の以前は別として、燃料炭が本格的に海上輸送の貨物となったのはオイルショック後である。 従って、オイルショック前に夏枯れが言及されたのはタンカーの為の夏枯れであっためと言えよう。 
以上から、アジア諸国の冷房を考慮すると燃料炭の輸送減が「夏枯れ」の要因とする意見は影が薄くなっている。
2)
穀物輸送の端境期
新穀の輸送開始に関しては、小麦は北半球主要の北米とEUの輸出量は6,980万トンで南半球の豪州とアルゼンチンの2,320万トンの約3倍である。 従って、北半球の夏季は端境期で夏枯れの一因となりえたが、トウモロコシと大豆の輸出量に関しては大きな差はない。 即ち、穀物(Grain)の輸出国は北半球だけではなく南半球の比重が高まっており、北半球の端境期を夏枯れの要因とするのは現状にマッチしてないと言える。
3)
あるべき「夏枯れ」の定義
印度の鉄鉱石の年間の輸出量推移の資料2参照、モンスーン時期の月間の輸出量はピーク時より約550万トン(パナマックス80航海弱(550万トン/7万トン)減となる。 即ち、「夏枯れ」はインド洋のモンスーンによる鉄鉱石の輸出減が主役であり、穀物と燃料炭への需要減は脇役である。  

    (二) 理解困難で非論理的と見える夏枯れ後の「冬場の市況」に就いて
1)
パナマックスの軟調
 ケープサイズとの比較上と上記の季節的要因の観点から予想外の軟調である。ドライ市況全体に対するインパクトが小さく期間も比較的短いと述べたが、その範囲内で収まっていると思われる。 然しながら、冬場を迎え上昇しなかったことは下がり過ぎであると言えない事もなく、その場合、反動高への調整が出て来ても不思議ではない。
2)
ケープサイズの上昇
i)
理解困難で非論理的に見えるケープサイズの上昇
  • ファンダメンタル面では、北京オリンピック、上海万博に続く1兆円以上の財政資金が投入された広州のアジア競技大会も開催され国家による大型公共投資も終わった。 然も、世界経済は日欧米の景気の閉塞感が強まりつつある段階での上昇である。
  • 昨年の1億5,000万トン鉄鉱石の投機的在庫の行方不明な侭での上昇である。
  • 理解困難で論理的でないと見える経済現象は、バブル発生か、市場への人為的操作の存在を意味するが、今回のケープサイズの上昇は下記の通り人為操作による様である。
  • ii) 今回のケープサイズ上昇の構築者
  • 寡占で影響力強めている鉄鉱石の3大山元である。 10月後半、世界最大でブラジルのValeが、中国向けのケープサイズで$30〜$32(今年の最高値は5月の$31.75)で短期間に8隻ほどを集中的に制約し市況上昇の先駆けをし、それに呼応するかの如く豪州のRio TintoとBHP Billitonが、中国向けの運賃$12で成約し高水準を定着させた。
  • 今回はFFAを高くして運賃を上昇させた実績と経験を持つトレーダーではなかった。 FFAを見る限りにおいてTraderはこの水準まで上昇するほど楽観的ではなかった。。
        最後に付言して置きたい事は理解困難で非論理的に見える現象もファンダメンタルからの乖離はありえず、冷静で鋭敏な分析力が要求される事となる。(2010年11月16日轟木記)
    資料1

    資料.2 2009年 印度の鉄鉱石輸出実績

     

    1月

    2月

    3月

    4月

    5月

    6月

    7月

    8月

    9月

    10月

    11月

    12月

    合計

    輸出実績

    10,735

    11,153

    6,906

    8,847

    5,772

    5,417

    5,722

    6,002

    5,925

    9,485

    11,201

    10,933

    98,002

    実績-平均

    2,568

    2,986

    -1,261

    680

    -2,395

    -2,750

    -2,445

    -2,165

    -2,242

    1,318

    3,034

    2,766

    平均8,167

    *中国向け:83,903(85.6%) + 日本向け:4,901(5.0%) = 88,804(90.6%)

    (1,000KT)