史上最高から暗転したドライマーケットに就いて 2008年11月掲載
    現在世間を最も騒がせているのが、サブプライムローンである。 9月号で、このサブプライムローンは世界に猛毒を撒き散らすと申し述べたが、今その猛毒により大恐慌の再来を予想する意見が一部で出て来る程深刻である。
一方、海運界では、ドライ市況の暴落(collapse)である。6月上旬に史上最高値を記録した後、急激な下げ幅を記録する等下げ足を早めていた所へ、追い討ちを掛ける様にサブプライローン問題が発生し、市況は悲観論一色となった。今回はこの背景を整理しコメントすることとする。
   
(一) ドライ市況暴落(collapse)の要因である鉄鋼の動向

 経済的要因以外でのドライの市況を支配するのは今も昔も鉄鋼業である。従って、今回のドライ市況の低落も中国の鉄鋼の異変に起因したものである。
1) その端緒は、粗鋼生産量第2位の日本で、7月迄最高値を記録していたスクラップ価格の5割弱の急落から始まった。8月8日のテックスレポートに「関東鉄原入札でも過去の入札結果がこんなに下がった例はない」、「荷止め・荷制限が頻発し歴史的な下げ局面となった」と急落ぶりの象徴的な談話が掲載された。
2)
中国の鉄鋼業異変が起きた
鋼材輸出が7月より急増した。内需の低迷が価格下落を齎し輸出ドライブが掛かっている。 それまで500万トン台(6月は505万トン)であったのが、7月725万トン、8月768万トンと大幅な輸出増となった。
中国大手の鞍山鋼鉄と武漢鋼鉄が11月より鋼材価格の値下げを発表した。 市場価格は9月より低落が始まっており、 粗鋼増産の一翼を担っていた生産性の低い中小ミルが休止に追い込まれるとの予想が出ている。
GalbraithWeekly Report on 12/Sepでは中国の鉄鉱石の港頭在庫が9,000万トンを超えていると報じている。他方、国内産の鉄鉱石の生産量は7月に今年初めて2桁増とはならず6.8%増の6,370万トンとなったが、累計では3億9,100万トンと前年比23.1%増となっており増産が継続している。需要減退気味であることでこれ迄とは違い輸入減となる可能性が強い。
3)
その他
客観情勢無視で季節外れの中国に対するValeの鉄鉱石の値上げ要求に伴う荷動き減も低落に拍車を掛けている事は間違いないであろう。
原油高とサブプライムローンの影響(後述)によるスタグフレーションによる経済の深刻化が心理的に大きなインパクトを与えている。
   
(二) サブプラムローン問題と海運市況

1) 経済不況の影響は、一般消費に一番近い存在であるコンテナ貨物の減少から始まる。 現に、アジアから北米向けのコンテナが6月より2桁減となり、先行き不透明感を増し採算悪化が一層深刻化している。
2)
次に来るのがガソリンの需要減である。カリブ海にハリケーンGustavとIkeが連続して襲来しても、原油とガスパイプの重要な通過地であるグルジヤにロシア軍が侵出しても、OPECが50万バーレル強減産しても、イランの大統領が強硬発言しても、原油価格には影響を与えなかった。 需要鈍化に伴う原油需給のタイト感が薄れていると言えよう。
3)
但し、タンカー市況の堅調は、ガソリン以外のエネルギー消費量の硬直性、季節的要因、SH排除の問題、恒常的な中国のエネルギー不足等によるものである。 中国の今年前半の原油輸入は、1,000万トン増となっており、後半減少するのか否か、ガソリンを中心とした需要減が顕著となっている欧米や日本の減少を埋める事が可能か否か等のunknown factorがあるが、終局的には世界の経済次第であると言えよう。
   
(三) 結びに変えて
1)
最後に影響を受けるのが原材料輸送のドライ部門である。 即ち、デカップリング論(非連鎖)が適用され易いのがドライ市況である。 従って、その下げ幅が大き過ぎたのと急激過ぎたことで、市況の自然の流れとしての反動高が来るのは間違いあるまい。但し、その程度は今回の市況軟化が底流の変化に伴うもので反動高には限界があり、世界の経済次第では反動が極小化する可能性が強まることを否定できないであろう。
2) ドライ市況のワンサイクルは大雑把に5年から8年で、低迷期間を3〜4年として、今回の様に船腹需給がタイトな時は市況堅調の期間を最長で5年程度と考えていたが、ブームはその最長の5年弱で終わりを告げた。ドライ市況のワンサイクル最長8年説は生きていたと言えよう。
   

 

 

史上最高を記録した2008年のドライ市況の背景にについて   2008年9月掲載
    6月初めCape-sizeBCを中心にドライ市況は史上最高を記録した。 CapeBCの傭船料がPCR(Pacific Round Voyage)で$255,000を記録した。 一時間の傭船料が100万円を越える高額となった。 ジャンボジェット機のリース料と勘違いされそうな傭船料である。 今回はその背景に就いて整理することとする。
   
(一) ドライ市況を高騰させた要因

1)
 
中国の鉄鉱石の輸入量が急増した − 最大の要因
2008年前半の中国の鉄鉱石の輸入量4,224万屯増(=22.4%)増の2億3,040万トンとなった。 年換算では4億6,080万屯となり、対前年比で約7,770万屯増となる。昨年の対前年比が約6,700万屯増、率では16.4%であった為、量率共に前年比で凌駕した。
2)
日本の四半期の粗鋼生産量も過去最大
20世紀にはドライの市況を支配していた日本の粗鋼生産量も前半6,190万トンと過去最大を記録した。 過去最大は第一次オイルショックの年の後半の6,150万である。 これは日本の増産が付加価値の高い製品が多く需要が安定的であることもあるが、世界的に鋼材市況全体のファンダメンタルの好さによるものと言えよう。
3)
石炭需給の深刻化
原油の高騰は一般炭の需要を増加させる。 現在の豪州炭のスポット価格も$150.以上となっており、需要の底堅さを示している。
1月と2月洪水により豪州炭輸出減を齎し、その代替手当てに狂奔する事態となり運賃と石炭の価格を上昇させた。 新年度の原料炭と一般炭価格が3倍と2倍となった。
韓国の今年前半の石炭輸入は、中国炭が24.2%(約600万屯減、米炭が倍増の32万屯となった。 隣接ソース減と遠距離ソース増でトンマイル増を齎した。
日本が米炭の輸入を4月に再開した。 かつて日本向けの米炭(原料炭)の動向がドライの市況へ最大のインパクトを与えていたが、今回、海運市況へ密やかに影響を与えた。
4)
北京オリンピックの影響 
オリンピックと新年やクリスマスの長期休暇と同一視することは異論があるかもしれないが、祭典前の駆け込み需要と空気汚染回避の為のオリンピック減産前の駆け込み的増産があった可能性も否定できない。
   
(二) 上記を打ち消す要因

1)
 
7月16日、日本シップブロカーズ協会主催の講演会で上期の中国の鉄鉱石の輸入量は(一)(1)の通りの増加で港頭在庫が6,000万屯となり過剰在庫は3,000万屯となり、下期に在庫調整がおこなわれる可能性がある。
2)
中国の上期の鉄鉱石の生産量が過去最高の3,914万屯(前年比+25.8%)増となった」
テックスレポート23/07/08参照、下期の鉄鉱石輸入量への影響が懸念される。
3)
「7月Biggest slump for commodity prices in 28 years」FunancialTime1/Aug/08のショッキングな表題で第二次石油ショック以来の低落を報じた、値上り過ぎの是正で歓迎されている面もあるが、この低落傾向が底流として定着しない保障は無い。
4)
エネルギーと食料と工業原材料の高騰に伴うインフレとサブプライムローンによる信用縮小と言うスタグフレーションが心配である。 特に、サブプライムローンを「世界の猛毒」文春8月号J.E.ステイグリッツ教授と言われており、この種の過剰投資の解消には可なりの調整期間が必要である。
5)
この影響は「中国の輸出減が同国への直接投資減をも齎している」と言われている。 海運への影響は既にコンテナ船に現れている。 何時・どの程度タンカーと不定期船へ波及するのか推移を監視する必要がある。
   
(三) 結びに変えて
1) 以上の様な種々の懸念材料が発生していることは間違なく過度の楽観論は避ける時期に来ているのかもしれない。 そして5年も高度成長を続くとオイルショックの様な予想外な事件が発生しても不思議ではない。 但し、中国政府の昨年の税収が30%増となったこと外貨準備も2兆8,000億ドルと巨額となっていることで財政難と外貨不足からの経済の成長性を損なう状態ではない。 最も懸念されるのは経済成長を阻害する直接投資の減少、8%を超えたインフレと貧富の格差拡大による社会不安等かも知れない。
   

 

 

2008年前半の市況について 2008年7月掲載
    現在の世界経済は、景気後退下の物価上昇と言うスタグフレーションへの懸念が強まっている。 このスタグフレーションは1970年代の第一次オイルショック時に発生したが、これはインフレとデフレが混在する経済政策が難しい厄介な経済現象である。
この様に不安定要因が顕在化しつつある中で海運市況は原油価格と同様暴騰を続けている。 今回は、海運の3月号と5月号の原稿の結論部分に就いての不見識振りを反省しながら整理・分析をすることとする。
   
(一) ドライバルク市況 ― 海運5月号参照

1)
 
「ドライマーケトがピークアウトしたことは間違いない」と述べたが6日173CapeBCが$250,000dailyで成約され、昨年11月のピークを凌駕し、しかも石炭のパナマックス主導ではなく、鉄鉱石のケープサイズ主導であった。
2)
原料手当てで狂奔したのは、石炭だけではなく鉄鉱石も同様であった。 中国の鉄鉱石の輸入量が4月4,285万トンと最高を記録し、1月から4月の輸入量も1億5,349万トン、年率換算では4億6,050万トンとなる。 昨年の輸入量3億8,300万トンから7,800万トン増となる。 この輸入急増がドライ市況を暴騰させ、それが現在も継続している。 又、4月の輸入量が最大となったのは、年度末の駆け込み需要があったことが明確となった。
3)
日本鉄鋼の揚地滞船が多発しており、韓国・台湾の粗鋼生産も活況が継続している。
   
(二) タンカー市況 ― 海運3月号参照

1) 今年のタンカー市況の特徴は「DH供給不足とSHの供給過剰が交錯しジェットコースター的な不安定な動きとなる」と予想したが、結果はDHの供給不足感が強くSHを引き上げる形での高値安定となった。
2)
スエズマックスもファンダメンタルが改善したのか高値安定的に推移している。
   
(三) 後半の市況について
1) 強気論
夏場の不需要期に最高値を出したドライとWS200前後を維持しているタンカー市況から船主側が需要期を迎える冬場を前に一段と強気となっても不思議ではない。
滞船を生む港湾設備不足と修繕ドックの不足は船舶の稼働率を落とし、構造的に船腹も造船設備(新造船)も船員も全て不足しており海運市況はこの供給阻害要因が解消されない限り高運賃市況は続く。
四川大地震も復興需要もあり、従来の主張どおり上海万博まで続く。
世界経済とは違い、中国の物流が海運市況を支える。
2) 結 論
改めて、3ヵ月後の市況予測さへ、その困難さを再認識させられたが、現在は楽観論が蔓延しており、不見識を省みず敢えて慎重論を述べることとする。
経済政策の舵取りが難しいスタグフレーションの一層の深刻化が懸念される。 
(i)サブプライムローン等の信用縮小の問題は経営工学の信用拡大のメカニズムが破綻したこともあり想像以上に深刻で、World recession到来が話題となっている。
(ii)$140の油と$1,000を超えた鋼材、それを増幅しているBDIが10,000を超えた海上運賃の高騰を世界経済が咀嚼出来るか疑問。 過度のインフレは不況を齎す。
中国の鉄鉱石の在庫増(約1億トン)、鉄鉱石の国内生産(全体の約65%)も増産されている筈で、鉄鉱石手当てで狂奔して海運市況を暴騰させる事態ではない。
軟化の時期は中国の粗鋼増産傾向の停滞の顕在化と欧・米・日の原油輸入減がインド・中国の輸入増を上回る時期であり、鋼材と原油価格の動向と原油の荷動きを見る限りにおいてはその兆しは見えない。 早くても北京オリンピック後であろう。
結論としては、市況も経済も停止しない生き物である。 予測は市場から収集する以外には無い。 ドライは鋼材とスクラップ価格、タンカーは原油輸入大国の動向と価格であり、自動車の販売動向(数量と質)であろう。
   

 

 

年度末の駆け込みブーム不発の背景 2008年5月掲載
    鉄鉱石や石炭が値上がり必至の場合、年度末に駆け込み需要が発生、市況を上昇させるのが通常のパターンである。 処が、今年の1〜2月は期待に反して、際立った動きが無かった。 今回はその背景に就いて分析と整理をすることとする。
   
(一) 鉄鉱石に就いて ― 投機商品化して早まった年度末需要増

昨年11月に、ドライのマーケットはブラジル/中国の鉄鉱石の運賃が約$100、ガルフ/日本の運賃が約$125と史上最高値を記録した。 何れも想像を絶する水準であった。 これは鉄鉱石の年度末の駆け込み需要が半年近く早まった為でもある。その背景は次の通りである。

1) 昨年夏頃、08年度の鉄鉱石の価格は40〜50%の値上げが必至であるとの見方が決定的となっていた。 この事は、鉄鉱石が高い利益を生む投資対象商品となっていた事を意味する。 鉄鉱石は石炭と違い劣化しない為、ヤードさえあれば早く輸入し貯鉱して置く事が可能である。 早めの輸入の結果は、予想以上の65%値上げとなり半年余りで効率よい利益を得たこととなった。
2)
他に無視出来ない事は、昨年春先、豪州の西北の鉄鉱石積出港がサイクロンに襲われ、積み出しに支障が発生したことは記憶に新しい所である。 そのリスク回避の為にも年度末まで待たず輸入を早めた可能性が高い事もその要因であろう。
3)
4月4日時点の主要港の貯鉱量は、「5,750万トン」と報じられた。 此の事は、「中国の鉄鉱石の在庫が1億トン達している」との噂に真実味を与えかねない。 そうであれば、昨年の輸入実績3億8,310万トンの26.3%となり、今年に関しては鉄鉱石の輸入に狂奔することとはならないと思われる。 本年度の市況をヒートさせないと言う消極的な理由でマイナス材料となるかも知れない。
   
(二) 石炭に就いて ― 年度末需要増に応えられない供給力不足
石炭は長く貯炭すると原料炭の品質劣化や一般炭の自然発火が発生する。 夏頃は08年度の価格は2倍程度(結果は原料炭が3倍)になると予想されていたが鉄鉱石とは違い11月に駆け込み需要増はありえない。 処が、冬場の需要期を前に構造的な石炭供給力不足が顕在化し、鉄鉱石同様需給を緊迫化させた。

1) その構造的な背景は、(i)原油価格の高騰は一般炭の需要を増加させる、(ii)中国の国内需要増による輸出減、(iii)インドの輸入増、(iv)中越沖地震による柏崎刈葉原子力発電所の不稼動等、一般炭不足に要因に事欠かなかった。
2)
追加要因 (i)1月と2月に豪州クイーンズランドで2度にわたり集中豪雨による洪水で不可抗力が宣言され、原料炭までも深刻な不足状態となった、 (ii)南アも豪雨となり石炭不足が更に深刻化した、(iii)中国が旧正月前に大雪に見舞われ発電用の石炭の国内での需要増と鉄道輸送の隘路と相俟って輸出減を増幅させた。
3)
これらの状況が一般炭のスポット価格を$150まで高騰させ、原料炭も$300前後まで高騰させた。
   
(三) 結びに代えて
1) 懸念材料は石油や鉄鉱石・石炭等の原材料と穀物の値上げから来るインフレとサブプライムローンによる信用縮小とが原料の物流に何時、どの程度影響を与えることとなるのかが注目点である。
2) 原料手当てに狂奔するとマーケットが高騰する。 石炭は今年も狂奔が継続しそうである。 この傾向は、(i)ブラジルの鉄鉱石のスポット運賃とガルフ穀物の運賃の戻り具合に明瞭な差となっており、(ii)日韓の鉄鋼会社が米炭(原料炭)を緊急輸入をした。 狂奔の真最中であり、これが一回きりで終わる保証が無い。
3) 結論的にはドライマーケトがピークアウトしたことは間違いないが、石炭の手当ての狂奔が継続される可能性が高く、従って、マーケットを支える役目は、暫くは鉄鉱石中心のケープよりもパナマックスが中心となると思われる。
4) 天候に関しては専門家に照会したいのは、中国の大雪とクイーンズランドの集中豪雨がラニーニョの所為なのか、この集中豪雨が過去2年の旱魃の単なる反動なのか、これらが地球温暖化の結果なのかである。
   

 

 

2007年年末のタンカーマーケット予想外の展開 2008年3月掲載
    10月までWS50〜60に低迷していたタンカーマーケットが11月急上昇し、12月には2004年に次ぐWS300を記録した。 10月迄はタンカーとドライは「天国と地獄」と極端な対比を示していた。 処が、11中旬を境に地獄から天国へ大変化を遂げた。 季節的に需要期であり、ある程度の上昇は予想していたが、これほどの上昇は予想を超える事態であった。 予想外のマーケットの発生は記憶に残す必要があり、同時に、ある程度の分析も必要である。 今回はこの趣旨に添って整理をする事とする。
   
(一) タンカーマーケットを急騰させた要因

1) 米国の原油在庫が過去3年で最低となっていた。 7月に350百万バーレルを超え、2005年(ハリケーン、カトリーナで混乱した)の在庫を越えていたが、その後は減量を続け、12月上旬には約305百万と過去3年で最低となった。 90ドルを越える原油価格の高騰が在庫を減少させた結果だと思われる。 これは需要側に変化が発生した場合敏感に反応する状態となっていた。 12月に米国へ寒波で緊急需要が発生しマーケットを上昇させた。
2)
中国も手控えていた。 11月初旬、上海の北の南通市(Nagtong)に出張した友人から「ガソリンスタンドは何処も長蛇の列ができていた」と報告があったが、石油不足の「油荒」が発生していたことである。 中国政府による石油価格抑制策が赤字を押える為、売り惜しみ・原油輸入減となったものと推測される。 そして11月より10%程度の値上げが承認され、それを機に原油輸入増・マーケット急騰の一因となったと推測される。
3)
「Heibei Spirit」の接触・漏油事件も影響を与えた。 12月7日、韓国でSHタンカー「Heibei Spirit」が接触事故を起こし15,000klの漏油事件が発生した。 軟化気配を見せていたマーケットがDHを手始めに堅調に転じさせた。 韓国政府はSH船の排除はしないとの声明を出したが、心理的な面への影響は無視できなかったものと言える。
4)
タンカーとドライの市況の格差は平均化の方向に進む。 本来は新造船発注とスクラップ量とで時間を掛け調整されるが、今回は格差が激しい為、タンカーからドライバルカー(VLOC)への改造増で調整が早まっている。 現在、10隻弱のSH のVLCC (2010年には一部例外を除き排除される)が改造中であり、ドライ市況次第なるも更に増加の可能性が高い。 改造は係船と同様供給減の即効的な効果があり市況への影響が無視出来なっていると言える。 一方、新造船は今年が37隻と比較的少い事もあり供給圧力が弱まる可能性は否定できない。
5)
その他の心理的要因(Sentiment面)
i) クリスマスと新年の長期休暇を前にしていた事と原油輸入を手控えていた中国と韓国の旧正月も無視出来なくなり、傭船者側に余裕のなさが目立った。

ii) オイルショック後の行き場が無くなり暴落したタンカーのトラウマ経験者が少なくなった事、しかも、高収益を計上している船主側と2004年のWS350や昨年のドライの暴騰は、大量輸送に代替手段が無い事を改めて認識させられ新しくて生々しいトラウマを経験している傭船側とでは心理面での抵抗力に差がある事も考えらそうだ。

iii) 日本向けVLCCの運賃は、1Q:WS64, 2Q:WS63、3Q:WS56と10月までのタンカーマーケットが低過ぎたことに対する反動もあったと思われる。
   
(二) 今後タンカーマーケットへ影響を与えそうな弱気に要因
1) i)原油価格高止まりに伴う世界的な需要伸び率の鈍化である。 更に、中国にも一部見られる通り、発展途上国による価格安値維持政策が何れ停止され、原油価格高騰・需要減と言う価格調整メカニズムが機能して需要減を齎す。

ii) サブプライムローン問題の深刻化である。 既に、米国で雇用増の減少と個人消費に翳りが見えている。 世界経済がリセッションになれば需要伸び率の鈍化は避けられない。 オイルショック後の海運(タンカー)・造船業や日本の失われた10年の例を見る迄も無く、過剰投資・過剰設備の解消には金利政策だけでは不可能。 調整には時間が必要である。
   
(三) 結びに買えて
1) ブームが短期間であった事でファンダメンタルから来た需要増ではなく心理的(sentiment)な面が強かった。 理由は下記の通り;
(i) VLCCの突飛高に始まり安価なSuezmaxへの分割が進みVLCCの運賃低落を早め、同時にSuezmaxの運賃も軟化した。

(ii) 成約数も昨年比11月が9隻増の114隻、12月は5隻減の107隻であり暴騰するには理由薄弱であり。
2) SHの“Heibei Spirit”の事故の影響無視できない。 Fairplayの報告によると、韓国は、昨年のSH比率48:52を08年に40%へ09年には30%への規制が決定した。
3) 以上から今年のマーケットは上述の(二)の理由でファンダメンタルでは過度の期待を持つことは危険かもしれない。 特徴はジェットコースター的であると予想される。 理由は、韓国の動きにも見られる通り、DH供給不足感が強まりSHの過剰感とが交錯し、これに心理的な葛藤が加わり非常な不安定な市況となると思われる。
   

 

 

ラニーニョ(La Nino)と2008年のマーケットに就いて 2008年1月掲載
    昨年の1月号では「エルニーニョ(El Nino)と2007年のマーケットに就いて」述べたが、昨年はエルニーニョ、現在はラニーニョと気象異常の対極となっている。 今回は、昨年のエルニーニョと対比し整理することとする。 但し、飽くまで気候現象からの素人の推測であり学問的価値には疑問がある事予めご承知置き願いたい。
   
(一) ラニーノの影響−タンカーと一般炭輸送に影響を与える猛暑と厳冬

1) ラニーニョとは赤道直下のペルー沖の海水温度が低下し、反対側の西の端の海水は高温となり低気圧の発生が多くなる気候現象の事である。
2)
エルニーニョもラニーニョも貿易風の強弱によって決まるとしたら太平洋も大西洋も同じである筈である。 日本では前者が暖冬と冷夏であれば、後者のラニーニョは猛暑と厳冬となる。 それを裏付ける様に昨年春先にエルニーニョからラニーニョへ急変、それまでの暖冬が一変し、春の到来が遅れた。そして昨年夏は猛暑で最高気温や真夏日を記録更新した。 当然今年の冬も厳冬が予想される。 ラニーニョに伴う日本等の北東アジアの厳冬は石油の世界最大の消費地である北米東岸も同様に厳冬となると予想される。 ラニーニョはタンカーには好材料である。
3)
春先(南半球は秋口)太平洋西端の豪州鉱石積出港にサイクロンが直撃した。 積荷能力不足と相俟って船混を齎しケープサイズを中心に市況を高騰させた。 インド洋の海水温度が原因かもしれないが、ラニーニョが原因とも言えそうで、記憶に留めて置きたい。
4)
エルニーニョによる旱魃でアルゼンチンに抜かれ4位となった小麦輸出国の豪州は、昨年もラニーニョにも拘わらず旱魃となり不作となった。
   
(二) 昨年末回復基調を示したタンカーの2008年に就いて
1) 夏場から30隻程度の翌月にroll-overし余剰となったVLCCが、11月下旬にはほぼ解消されスポット運賃もWS165からWS185まで上昇した。 90ドルを越える原油価格が定着している状況下ではこれほどの回復は予想以上であった。 

その原因は(i)中国のガソリン、重油や軽油等の小売価格抑制策が供給混乱(fuel-supply crisis)を齎した。 
中国政府は11月1日より約10%の値上げを許可した(24/NovのEconomist, Troubled Waters参照)。 高騰した原油価格をヘッジ出来ないことで、9月の1.15%の輸入微増となったが、その傾向が継続した、タンカーマーケットが低落した推測される。 然しながら、11月以降は10%値上げが承認された事て輸入が増えマーケットが回復したと思われる。(ii)20隻を越えると言われているSingle Hull(SH)VLCCのVLOCへの改造がスムースにされれば係船と同じ効果を齎すが(月報11月号で、タンカーの回復には15〜20隻程度の係船が必要)、その具体化を疑問視する人が多く実態より心理面の影響が大きいと思われる。(iii) ラニーニョによる米国東岸と北東アジアの厳冬が現実となる可能性が大きい。 

以上により、原油価格の高騰に伴う需要減とこの3の要因との鬩ぎ合いでとなる。 長期休暇を控え12月中旬の成約水準が2008年の市況の予想に大きなヒントを与える事となると思われる。
   
(三) ドライの2008年に就いて
1) 全て中国の粗鋼生産次第であり、それに付随した鉄鉱石の輸入次第である。 目下の懸念材料は、(i)来年度の鉄鉱石の値上がりが40/50%と言われている。 こ原料価格のこの様な高騰を鋼材の市場価格へのヘッジ可能か?中国の国内消費減とならないか?であるこれが粗鋼増産に影響を与えることとなればドライ市況にはマイナス要因となる。
2) 一般炭も鉄鉱石同様の値上りが予想されている。 但し、高止まりの原油に比し格安であり需要増には変化が無く石炭積出港の船混みの継続と相俟ってプラス要因に変化なし。
3) 穀物は豪州の小麦不作はあるが、エルニーニョ時とは違い不作の話が少ない事、中国のコーン不作の報告も無い事でドライ市況へのインパクトが今年は小さい。
   
(四) 結びに変えて
1) 海運を取巻く環境は(i)ドル安を伴ったサブプライローンによる金融危機の高まりと(ii)原油価格が$100を伺う高止まり等で昨年より悪化している。 タンカーは(i)が最大の石油輸 入国米国に端を発している。 (ii) オイルショック後と同様石油消費減、輸送減で、この影響を速く受ける。 期待のバルカーへの改造は係船と同様に市況回復の即効薬となり得るが、改造能力に問題があり隻数が限定される可能性が高い。夏場の不需要期が要注意である。 ドライは2の要因が深刻となった後、荷動きに影響が出るにはタイムラグがある。 又、タンカーからのバルカーへの改造にはドックが見つかったとして、それから半年掛かる事、タンカーと違い市況に勢いがある事等で懸念材料は小さい。 心配なのは上がり過ぎとその反動、そして上昇疲れかもしれない。