ギリシャの財政危機と海運無税制度の矛盾

2012年12月掲載

   

現在の世界経済は、EUの財政破綻と不動産バブルの破裂に伴う金融不安が世界経済に大きな影を落としている。 その震源地の一つががギリシャの財政破綻である。 この解決策は緊縮財政と増税である。 一方、11月12日EUの財務相会議で財政再建の2年延長が承認されたが、延長に必要な320億ユーロの資金確保方法に難航中であり、IMOとEUの意見も対立した侭で解決には程遠く問題の先送り状態となっている。

処が、ギリシャには税源が残されていた。 海運無税制度である。 但し、海運税制の導入は海運企業の海外逃避(製造業とは違い容易)の危険性がある事が問題となる。一方、17/6のギリシャの総選挙で無税制廃止が囁かれていたがが、選挙の争点とはならなかった。 然しながら、国民の困窮度に我慢の限界を超えており、更に、EUの支援も前述の様に容易ではなく何れ限界に達すると思われる。 

従って、無税制度の廃止、少なくとも英仏独や隣国キプロス等のEU諸国並みのトン税標準課税制度の導入は避けられない状況である。 この場合、海外への逃避先として最も恐れられているのがマリタイムクラスターの中心として成長著しいシンガポールである。

今回はギリシャ海運の現状と特性の説明と両国の税制を対比すしコメントする事とする。 尚、この問題はFairplay(=FP)とLloyd's List(=LL)がギリシャの総選挙後と10月末に取り上げており、それを参考にしたものである事を付言して置く事とする。
   
(一) ギリシャ海運に就いて
 
1)

現状

(i) 資料参照、2012年7月現在総隻数718で世界の船腹の17%の1億DWT強を保有する世界最大の海運国である。 前年比44隻減となっているが、不況に対応した減少である。
新造船の発注状況は11年から急減中である。 但し、中国と対比すると;

・ ドライ・バルカーは1-9/12の中国の発注減は前年の同期間の1/2の67隻、ギリシャは2/3の125隻となっており減少度には差がある。 

・ VLCCの発注減は中国が不況対策としてVLCCを大量発注しており対比が無意味であるが、ギリシャに関してはDWTでは減少したが、隻数は昨年を凌駕している。

以上を見る限りに於いては世界最大の海運国の地位は変わりそうにない状態である。


(ii) 国家への貢献度
ギリシャで失業が深刻となっているが、「海運の直接雇用が6万人であり間接雇用を含めると20~25万人である。 外貨収入は「2000年~2010間の年に1,769億ドル「1,400億ユーロ)となっている。 この金額は09年の財政赤字の半額である」(LL21/June)。 以上若干の貢献はしているが、収益に対する課税もなければ、現在日本やEU諸国が導入しているトン税標準課税制もない全くの無税となっており貢献と言うには不満足な状態である。 特に、2003年以降の史上最高・最長の海運市況で莫大な収益があり税収増に貢献出来た筈でありギリシャ経済引いてはギリシャ財政に多大の貢献が出来た筈である。
 
2) ギリシャ海運の特徴
その生い立ちは、第2次世界大戦中に米国が兵器等の輸送用として大量に建造された4,100隻のリバーティ船(約10,000dwt)が戦後順次売船されたが、当時の米国の大統領がギリシャ系のトルーマン大統領であった事でギリシャにも優先的に売船さられた。 主な売船先はギリシャの他に英国(含む香港)とイタリヤであった。1960年代迄はこのリバーティ船が不定期船の標準船型でありこの船型を数多く抱えたギリシャ(香港も同様)は船腹を消化するだけの貨物が殆どなく主に高度成長中の日本に傭船に出された。従って、自国の経済とは無関係な船舶への投資をする事となった。 それはコモディティに投資し高収益を目標とする金融ファンド的な発想を強く持った海運企業として発展した。 即ち、船舶のコモディティ化への推進者である。 この特徴は 現在のグローバル経済にマッチした頗る不定期船(タンカーとドライバルカー)らしい海運集団となっている。
 
   
(二) ギリシャとシンガポールの税制の比較

 
1)

ギリシャの海運税制
上述の通り、日本とは違い安価で安定的なコストで自国の産業の発展に寄与させる必要がなかった。 従って、政府の保護もなかった。

(i) 上述の通り、観光に次ぐ第2の重要産業であるにも拘わらず無税の所為か国家による海運関係のインフラへの投資は今迄なかった。 税制が変わらぬ限り後も期待されてない。

(ii)ギリシャ船主はギリシャの憲法107条により45年間無税で保護されている。 外船主は法律89条により保護されている。 即ち、パナマ等の便宜置籍国と全く同じである。 但し、憲法規定でない外国船主に対する無税制度の変更は容易である。

(iii) マリタイムラスターではシンガポール程の魅力に欠ける面があるが、ロンドンとのタイアップの強化と隣の大国トルコの経済成長で充分対抗できると思われる。
 
2)

シンガポールの海運税制
(i) 海運を国家の基幹産業として育成する為、次の様な条件を満たす船会社(船主/オペレーター)は優遇税制(実質無税)が得られるという海運支援政策が強く打ち出されている;
① 船主の場合:
・ 船舶はシンガポール国籍とする事。
・ 資本金S$5万以上である事。
・ 便宜置籍船スタイルではなく、スタッフ揃えて現地で意思決定している実態のある企業である事。
②  オペレーターの場合:
・ シンガポール国籍の所有船が6隻以上あること
・ シンガポールでシンガポール企業に支払うコスト(人件費・オフィスコスト・船費・金利等の合計)が年間S$ 6 mil(約4億円)以上ある事。

(ii) 地政学的に見ると、パナマとスエズ運河を除けば、大英帝国が確保した事に象徴される様に最良の海上交通の要所であり、然も、成長著しいアジアのど真ん中に位置している。 又、世界最大級のマリタイムクラスターとなるだけの不定期船貨物の傭船、売買船、船舶管理や船舶融資等々活発行われている。 従って、シップブローカーを含め海運関係者の人材が豊富である。然も、労働力の流動性に富んでおり雇用も求職も容易である。

 
3) チップ船のフリー船は汎用性欠如から市況低落の影響を強く受ける事となる。特に、南米産の輸出が始まる春まで米露の旱魃による穀物輸出減の影響を諸に受ける事となる。
 
   
(三) 結びに代えて

 
1) 日本の海運税制
日本の海運税制もトン数標準税制が導入されたが、パナマ等の外国置籍船を入れないで日本籍船に限定されており施行率も僅かに3%となっている事で改正拡充が必要である。 この外国置籍船は30年以上も前から日本の国税庁のチェックを受けておりトン数標準税制の対象外とするのは片手落ちである 。
 
2)

海運に限らず甘すぎるギリシャ税制
(i) 世界最大の海運国はその税制が健全であればその国の経済成長と繁栄に貢献するのは歴史的にも間違いない。 従って、財政危機は海運の無税制が責任の一端担っている。 「国破れても海運あり」では様にならない。

(ii) 地中海諸国ではアングラ経済の比重が高い事は周知の事である。ギリシャも同様な問題を抱えている。ギリシャの調査機関は「会計士や医者等の裕福な専門職は税金の申告をしていない。 その額は2009年364億ドルで、その年の財政赤字1/3に相当する」FP12/Oct。 以上の通り、税収増の余地は残っている。

(iii) 貨幣統合には綿密な検討が必要である。 本件9月号参照、そこで脱漏していたのが税制の問題である。 海運を含め税制の統一がない上にアングラ経済の存在を容認した侭貨幣統合を発足した事も問題である。

 
3)

無税の廃止と海外逃避
 トン数標準税制であれば逃避はないと思われる。競争力に致命的な差が発生しないからである。 心配であれば、EU各国とも緊縮財政でギリシャ国民に耐え難い苦痛を緩和させるため、逃避しない様対策を講じるべきである。

 
 
  2009 2010 2011 2012
所有船腹 89.3M (21%) 96.0M (20%) 104.1M (19%) 110.1M (17%)
発注船腹 38.9M (17%) 31.4M (15%) 24.2M (11%) 17.3M (10%)
隻  数 758隻 762隻 718隻
 
   

 


   深刻化する中国の過剰設備

2012年11月掲載

   

海運市況は未曾有の低迷が続いている。 低迷の原因の第1は過剰船腹である。 第2は中国経済の減速に伴う船腹需要減である。 

10月13日に閉会された世界経済の年次総会の指摘の(イ)深刻な欧州金融不安解消の必要性、(ロ)財政赤字が4年連続1兆ドル越えた財政の壁の解消と債務上限引き上げが不可欠、更に、忘れてならない事は、(ハ)世界経済は下振れのリスクが残ると言う指摘である。 以上の指摘の何れも難題である。

(イ)の欧州問題、(ロ)の米国財政の問題、何れも中国経済に影響を与え終局的に海上荷動きに圧倒的に影響を与えている中国経済の減速をもたらしている。 (ハ)の世界経済の下振れのリスクとは、海運(原材料輸送のドライバルカー部門)から見るとこの中国経済の減速である。 

鉄鋼、アルミ産業や製紙業等の素材産業の過剰投資・過剰設備の急激な顕在化に世炉ものである。 

2009年の大不況回避に最大の効果があったとして大歓迎されたリーマンショック後の4兆元の景気刺激策が上述の過剰投資と設備を齎し中国経済を引いては世界経済を悪化させ可能性が強まっている。 即ち、景気対策の後遺症の顕在化による下振れの可能性が高くなっていると言う事である。

以上の実状は海運に可成りのマイナス要因となる事は避けられない。 今回はドライバルカーの海上輸送に関係の深い産業の実体を整理する事とする。

   
(一) 過剰投資・過剰設備の実体
リーマンショク後の4兆元の景気対策が主因と言える。 「この財源の大半は銀行融資であり設備投資に沸き生産能力大幅増加させた」(日経9月2日)との指摘通りである。
 
1) 中国の鉄鋼業
この景気対策でリーマンショック直後の「09年の粗鋼生産能力が7億トンであったのが、現在1億5,000万トン増の8億5,000万トンとなった」(上記日経)との指摘である。 最新の中国筋の情報では「生産能力は9億トン」と言われている。 これは4兆元の景気対策の後遺症ともいえる過剰設備を発生させていると言う事を意味する。 

(i) この数字の巨大さは景気対策で日本の粗鋼生産能力を軽く凌駕する設備投資がなされた事であり、更に、9億トンとは中国の高度成長が始まる前の世界の粗鋼生産量を凌駕した数字であることである。 換言すればこの10年強で世界の鉄鋼業の生産能力は2倍となったことを意味する。

(ii)  リーマンショックは中国にとって自国の過剰設備が顕在化する直前の他動的な米国発の金融危機であったあった為、景気政策は主に設備投資に向かった事に特徴がある。  SSYは今年の粗鋼生産量が約7億1,240万トンと予想している。 この場合、粗鋼生産設備の過剰は、現段階で約1億8,760万トン(=9億トン-7,124万トン)となっている。

過剰分は不良債権化する可能性が高い。 従って、中国の景気対策は日欧米とは違い財政赤字ではなく過剰設備に伴う不良債権の増加という結果をもたらした。
 
2) 中国のアルミ業界
ボーキサイトとアルミナは、鉄鉱石、石炭、穀物に次ぐ第4位の海上輸送貨物である。アルミは鋼材と比較すると汎用性が広く軽量である等の差異があるが、量的に少ないこともあり、鉄鋼業の動向に埋没し目立たない存在となっている。 実際はアルミナ・ボーキサイトの輸送でPanamaxBC以下の船型には可成りのインパクトを与えている筈である。

(i) アルミは電気の凝縮産業(congealed electricity)であり生産コストの40%を占めると言われている。 従って、アルミ産業の成長はその生産国の電気料金が決定する。 従って、水力発電を持つカナダとスイスや原油や天然ガスが豊富な中近東等が有利である。 電力供給に問題を抱える中国でのアルミインゴット生産の拡大は小さく輸入が急増すると予想されたが、逆に生産能力は2000年の2.8MTから2011年には17.8MTと世界の40%を占めるほど増大し世界のアルミ市場を左右しかねない程の大きな影響を持つ様になった。

(ii) 現在中国のアルミを取り巻く状況は
  • 中国経済は減速が顕著になりつつある事。
  • 世界のアルミの在庫が10MT(ジャンボの150,000機に相当する量)ある事。
  • 供給過剰はリーマンショック頃から始まった事。
  • 価格は過去18か月値下がりが続いている事。

以上の問題を抱えながら、1-8/12の生産量は前年比10.2%増となっている。 更に、トレーダーやアナリストは3~4年内に西域のXinjangに10MTが増設される事なろうと語っている。 10MTは現在の欧州と北米の合計の生産量を超える数量である。 この様に投資の勢いは衰えを知らない状態である。(以上FT10月8日を参考とした)

(iii) 過剰設備の当然の帰結として、[世界最大手のアルコアが本年度の世界の需要の伸び率を7%から6%へ下方修正し,7-9/12の収益も$143Mの赤字となった。 前年同期は$172Mの黒字であった。](10月10日日経夕)。

(iv) 以上の状況は「地方政府の盲目的なGDP成長を追い求め、国家の産業政策の有名無実化となっている」と言う指摘があるが、4兆元の景気対策の後遺症の面と沿岸地域と格差是正と言う面もあると思われる。 何れにしても、中央政府の規制を受けない過剰投資は非常に憂慮される。

 
3) 製紙業
(i) 中国国内の供給過剰で余った紙が円高を追い風に日本に大量に輸入されている。 価格を維持すれば中国産にシェアーを奪われる。」(日経10月8日)と言う事態となっている。 但し、鉄鋼・アルミに比較すると過剰設備の規模と比率は小さいと思われる。

(ii) チップ船の収益を悪化させている。 特に、フリー船は悲惨である。 本来であれば汎用性が狭い為、フリー船が増え難い船舶であったが、史上最高の海運ブームにより大豆かす輸送で高収益を上げられた事で安易にフリーを持ち過ぎた結果である。
 
   
(二) 海運(ドライバルカー)への影響

 
1) 過剰設備を抱えた鉄鋼産業への船腹需要に大きな期待を持つ事は難しくCape-sizeBCには大きなマイナス要因となる。 言うまでもなく鋼材の市場価格が供給過剰で抑えられ下値への圧力が強く生産調整の必要が再三に亘り発生するからである。
 
2) アルミに関しては、中国以外ではアルミの需要増は限定的であり、加え、中国の設備増の圧力で縮小の動さへ見られる程で新規投資の意欲が目下の処なく、船腹需要は弱い状態が続くことは間違いない。 但し、中国の過剰設備が顕在化した時、船腹需要減を含め混乱が予想される。
 
3) チップ船のフリー船は汎用性欠如から市況低落の影響を強く受ける事となる。特に、南米産の輸出が始まる春まで米露の旱魃による穀物輸出減の影響を諸に受ける事となる。
 
   
(三) 結びに代えて

現在の世界経済不振の遠因は、サブプライローンへの過剰な資金に流入に端を発したリーマンショクに対する景気対策の後遺症である。 この不況対策は中国の1兆元による刺激策以外は金融緩和が普遍的となっている。 以下で海運市況との関連を述べる事とする。
 
1) 金融緩和が海上運賃に影響を与えたのは、当時最大の海運国で影響力を持っていた日本で、1985年のプラザ合意の後、円高対策の一環としての内需拡大策での金融緩和による不動産ブームがあった時、輸入材が急増しHandy-sizeBCの米材船が上昇したのみである。従って、現在の世界的な金融緩和も海運市況へ影響はあまり期待できない。
 
2) 財政資金の活用に就いては財政赤字の深刻化から非常に難しくなっている。 欧州は勿論の事、米国も4年連続1兆ドルの赤字となったと報じられた。 日本はご既承の通りである。 この状況下財政政策が景気回復と海運に影響を与える事は考えられない。
 
3) 中国の今回の1兆元が前回同様銀行融資によるものなのか、公共投資に対するものなのか注目される。 2回目の過剰投資や不良債権の増加は歓迎されない事と金額も1/4であり前回とは比較にならない程弱く海運への影響は期待できない。
 
4) 歴史上不景気が姿を消すことがない事は不況対策に万能薬は存在しない事を意味するが、その繰り返される不況対策の中でも最も困難なのが過剰投資による不景気からの脱却である。 従って、新たな世界的大不況が発生するとしたら、EUの財政破綻ではなく中国の過剰設備が引き金となる可能性が高い事かも知れない。
 
   

 


   爆弾低気圧と旱魃と海運市況 2012年10月掲載
   

9月号で閑話休題としてEU危機と米国の旱魃を述べたが、その中で旱魃問題は、ドライバルカーの市況(事後海運市況と表示)への影響がさほど大きくない事でやや扱いが軽過ぎる嫌いがあった。
然しながら、記憶を辿ってみたら穀物の不作が海運市況に主役としてインパクトを与えた例として1995年の例があった。

 然も、この年が今年の春同様爆弾低気圧が発生している事が判明した。 加え、今回の米国の旱魃は8月末にハリケーン・アイザックがニューオリンズに上陸したにも拘らずトウモロコシと大豆は旱魃の回復とはならず軽視できない状況となっている。

以上から今回は、1995年と2012年の状況を対比させながら整理をする事とし、2012年を記憶に留めて置く一助とする事とする。 但し、1995年は18年前でありラニーニャや地球温暖化が話題になっていなかった事もありデーター不足は否定できない。 従って、類推が入る事予め承知置き願いたい。
   
(一) 現在の米国の旱魃の実態
 
1) 穀物輸出のピークである第四四半期(4Q/12)の米国の小麦・トウモロコシ・大豆の輸出量は31.5MT(3,150万トン)と2004年以降最低となる見込みである。 収穫期の遅い大豆とトウモロコシが旱魃で不作となり、対称的に早い小麦の輸出量は昨年比4.8MT増の32.5MT見込み。
 
2) 大豆に関しては、北半球に代替国がないため、価格は8月8日現在$160/bushelであった のが、現在$167.50迄上昇した。 米国の輸出量は6.5MT減で過去7年の最低の30.2MTの見込み。 他に大豆かす1MTが減少する見込みとなっている。 USDAは、この高価格は ブラジルで年換算の15.5MT増の81MT、アルゼンチンは14MT増の55MTと増産の予想方修正をした。 ブラジルの輸出量が達成されれば37.6MTとなり米国を凌駕する事となる。 ただ積荷設備不足が問題化しそうである。
 
3) トウモロコシ(Coarse Grain)に関しては、輸出量は6月の予想より約14.5MT減の33.5MTとなる見込み。 一方、生産量は6月では375.7MTであったのが10MT強の減産で273.8MTとなる見込み。 これを穴埋めする国は見当たらず、結果は在庫の食い潰しとなる。  今回の在庫量は不作で問題の1995/1996年度以降で最低の見込み。 
又、USDAは世界のトウモロコシの海上輸送量は年間で8.7MT減の116.0MTとなると予想している。 以上(1/3)はSSYのMonthly Shipping Review(8月号)による。
 
    (二) 1995年の再分析と2012年との対比
上述の通りトウモロコシの不作で在庫が急減した年であり、NYK社のDry Bulk Market Trendの通りドライバルカー市況は、BFI(BDIの前身)は2,352の高水準となった。 高運賃の原因は中国のトウモロコシの不作を主因とし豪州小麦の不作を副次的な要因とする複合的なものである。
 
1) 爆弾低気圧が発生したと言う共通点がある
爆弾低気圧とは、「急速に発達する温帯低気圧の俗称で、季節の変わり目で暖気と寒気の勢いがともに強いところに気圧の谷が接近し急速に発達するもので日本海を北上するものや日本の南岸沿いを急激に発達しながら駆け抜けるものである」(5月6日日経)と言われている。 この様に北半球の太平洋の西端の日本に発生するものであるが、似たものとして大西洋の西端の東岸でノーイースタと言われ恐れられている。 類推ながら、太平洋と大西洋の北半球の西端の海水温度上昇が発生の1因と思われる。

(i)今春日本海を進んだ爆弾低気圧は、4月2日09:00時頃、黄海で発生、1006hPa (=ヘッドパスカル)の低気圧が東北を通過する4日の約2日間で44 hPa下がり962 hPa迄発達した。 冬から春へ移行時に発生する春一番が台風並に巨大化した低気圧の様である。 

(ii) 一方、1995年は今回より北を通過したが、時期的に秋の11月7~8日の約2日間で44 hPaと同様に低下した記録があるとの事である。 

(iii) 何れもラニーニャか地球温暖化に伴う海水温度の上昇が一因と思われる。 従って、更なる温暖化が進展しない限りエルニーニョでは発生し難いと思われる。
 
2) 最大の相違点
(i) 1995年 - エルニーニョによる不作
 ・ トウモロコシの不作で輸出国であった中国が輸入国となった年である。 関連があると思われる事として北朝鮮の飢饉が発生した年でもある。 具体的に中国が年間600万トンのトウモロコシの輸出国であったのが、95年10月を境に年間1,000万トンの輸入国となった。 これは、中国向けの輸入の船腹需要増と中国から輸入していた日本・韓国が米国からの輸入に代替せざるを得なかった。同時に豪州が旱魃で小麦が不作となり輸出が急減した。具体的には、麦の輸出がそれまで月間100万トン多い時は200万あったのが急減し95年1月には32万トンとなりこの頃より海運市況は上昇に転じた。 即ち、豪州の小麦の輸出減がトンマイル増となり市況を引き締めた。 尚、1994年の豪州の小麦の生産量1,800万トンであったのが1,050万頓程度まで減少した。 以上海運市況は中国と豪州の不作が主役となって上昇した。更に、この旱魃は1994年エルニーニョの結果の様に思われる」95年11月26日付市況雑文(シップブローカ組合の月報用)で報告をしている。

今回のラニーニャが米国・ロシアの旱魃となり、その対極的現象として1995年のエルニーニョは中国・豪州の旱魃であったと言えそうである。

(ii) 現在の2012 - ラニーニャによる不作
 ・ 中国は北京で洪水が発生する程であり旱魃による不作は発生していない。 小麦に関しては、ロシア・ウクライナが旱魃による不作となっている。 又、1995年に不作となった豪州もラニーニャによる洪水が心配された位であり順調な作柄となっている。 

 ・ 期近の運賃水準は、米国の不作で穀物輸送が最も活発になる4Q/12~1Q/13の半年間のパナマックス以下のバルカーの市況は例年とは違い期待薄となる。 但し、2Q/13以降は南米産収穫期迎え荷動き活発となりトンマイルが長くなる事もあり反動的に良くなる。

(iii) 2回の爆弾低気圧の発生時期に就いては、1996年は中国と豪州の旱魃を発生させたエルニーニョが終焉を迎えた直後のエルニーニャで発生したものであり、2012年は米国とロシアに旱魃を齎したエルニーニャ終焉の直前の6月に発生したものである。 尚、2012年8月にはエルニーニョとなり、現在も継続中と報じられている。

 
    (三) 結びとして
 
1) いささか乱暴な結論となるが、1994年のエルニーニョは中国と豪州が旱魃となった。 今年7月迄のラニーニャは米国とロシアの旱魃を発生させた。 8月にエルニーニョとなった今年後半から来年に掛けて1984年の傾向を示すものと思われる。
 
2) ラニーニャは太平洋と大西洋の西端の海水温度の上昇を齎す気象現象であると了解している。 そうであれば、温暖化に伴う海水温度上昇との区別が困難となる。

今年の爆弾低気圧発生に象徴される気象の狂暴化や米国・ロシアの旱魃が(イ)ラニーニャによる、(ロ)温暖化による、(ハ)2が複合したものによるかが問題である。 最も心配されるのは (ハ)である。 従って、ラニーニャが発生した場合は災害に警戒が必要となる。 何れにしても、今年の日本の気象の凶暴化(集中豪雨・猛暑・905hpsの台風16号)は地球温暖化に伴う異常気象の先触れを示している様で危惧される。

更に、2回の爆弾低気圧が、エルニーニョからラニーニャに変わって直後とラニーニャからエルニーニョ変わる寸前に発生した事に意味があるのかも知れない。
 
3) 上記の旱魃の予想が、水と空気で醸成される気象現象は気紛れである事や今回の予想は類推が多く乱暴過ぎる結論でありその咎を受ける事となるかも知れ。
 
4)

余談ながら、2006年もエルニーニョが発生した。豪州の旱魃による不作と、隣接しているインドネシアで森林火災が多発した。 詳細、海運の2006年11月号参照。

 
   

 


   暑い夏を演出する欧州危機と米国の旱魃 2012年9月掲載
   

夏休みの季節で話題に事欠く時期であるが、今年は特に暑い夏となっている。
第1は、欧州危機である。 巨大な市場を持つ欧州の危機は懸念された通りこの地域への原材料を含め貨物の輸出を低迷させている。 更に、欧州危機は金融縮小を伴っている。 これは高度成長地域である中国を含めたアジアへの投資の勢いが弱まる事でもある。 これらがもたらす事は、輸出産業の低迷が始まり、経済活動の低下で不定期船部門(ドライバルカーとタンカー)を左右している中国経済が減速する事である。
第2は、米国の旱魃である。 この旱魃が不定期船市況にどの程度明瞭に影響を与えるのかは曖昧さが残るが、海上貨物の第3位を占める穀物不作はドライルカーに取っては歴史的に無視できない問題であり間柄である。

今回は、海運市況とは、やや距離を置くこととなるかも知れないがが、夏枯れの閑話休題として上記の2項目を取り上げることとする。 但し、何れも、非専門家としての意見であり科学性に欠けることは避けられない事、予め承知置き願いたい。
   
(一) 欧州危機に就いて
 
1) 解決に長時間必要
(i) 欧州危機は為替による調整機能を放棄し財政政策と金融政策が中途半端な侭通貨統合を先行させた結果発生したものである。 加え、国籍と言語の違いによる労働力の移動が阻害されていると言う地域格差の調整が困難であると言う問題も抱えている。 従って、この解決には長時間を要する見込みであり、その分海運市況の低迷も長引く事となる。 本件に就いてLloyd’s Listの6月12日の記事で問題点を”California and Kentucky are in the same boat. Apparently Portugal and France are not” と表現している。 言い換えると「ベルリンとハンブルグは同じボートに乗っているが、アテネとベルリンは同じボートには乗っていない」と言う事である。 

(ii) 過去の社会経済のショックは、経済の流れを人為的に阻害した事で矛盾が噴出する形でのショック発生であった。 現在の欧州の貨幣統合は、前述の様に中途半端な状態の侭の頗る人為的な貨幣統合行っていると言える。 従って、新たなるショックが発生しても不思議ではない。 予測できないが、欧州危機を根元とするショックの可能性が高そうだ。
 
    (二) 気候問題に就いて
 
1)   異常気象の頻発
(i) 異常気象が頻発している。 熱波と旱魃が米国とロシアで発生、インドがモンスーンの遅れで旱魃となっている。 旱魃を穴埋めするかの如く北京と北部九州大水害が発生した。
本来海運業では気候問題を語る場合は、ラニーニヤとエルニーニョの問題で事足りた。 処が、最近の気象を観察するとこの2の気象現象では予想と把握が困難となっている。 即ち、気まぐれと狂暴化である。 これは地球の温暖化が影響を与えているものと思われる。異常気象の他の原因として最近言われている偏西風の蛇行がある。 これは温暖化と関連があるのか、或いはラニーニャと関連があるのか専門家に聴いてみたいところである。

(ii) 今年年初に注目した事はラニーニャの下で発生し、Cape-sizeBCの市況を暴落させた昨年の豪州の東海岸の洪水の再来であった。 気紛れの結果かもしれないが、本年は幸いにも発生しなかった。
 
2) 55年振りの米国の旱魃 - 海運市況へ影響を及ぼす   
(i) その経緯は、初めは少ない降雪と通常より早い春から始まり、それが夏の到来とともに55年来の熱波と旱魃が米国中西部を席巻した。 

(ii) 7月10日現在、The national Climate Data Centerによると55%の州が旱魃となっており、その内の1/3が厳しい旱魃となっている。29州の1,000郡が自然災害地域に認定された。 7月10日現在、トウモロコシの劣悪と非常に劣悪の品質の割合が前週の30%~38%へ増加し、大豆は27%から30%へ増加した。

(iii) 今回の旱魃損害額は数10億ドルとなる見込み。 米国の輸出占有率が52.5%のトウモロコシと42.9%を占める大豆の価格に影響を与えている。 この週で価格は30%上昇した。但し、米と小麦の供給が潤沢であり食糧危機の引き金となる事は考えられないが。 肉類の価格の上昇は避けられない。 

(iv) とうもろこしの生産量の約40%がエタノール生産に転用することが法的に強制されているが、即時差し止め要求の動きがFAO(国連食糧農業機関)や米国の畜産州から出ている。

以上の通りで、旱魃の状況は現在(8月15日)も変わりはない。 尚、中国はウモロコシの備蓄を一部放出するとの声明を発表した。規模と時期は不明。
 
3) インドの旱魃 - 海運市況への影響なし   
(i) 過去2年間モンスーンは開始の遅れと降雨量の減少を齎した。 2年前のパキスタンの洪水の例の通り気紛れの度合いが大きくなっている。 ヒマラヤの氷河の後退は温暖化の進捗状況を示している。 本来であれば、温暖化でインド大陸の温度の上昇は、インド洋からモンスーンに乗り水分の供給増となるが、石炭の粉塵やバイオマスの空中滞留によりモンスーンの不安定性は増加させている。 他に、ベンガル湾での強いサイクロンがインド奥地の不毛地帯に降雨を齎し小麦の増産となりプラス面もある。

モンスーンによる降雨がインドの(米用の)耕地面積の2/3は降雨に頼っており降雨不足は米を中心として食料価格の上昇に繋がる。 小麦の収穫にまで影響するのかは不明。 

(ii) インドのモンスーンと関連があると思われる2011年のタイの大洪水がある。 これは同国の雨期の後半の降雨はインド洋のモンスーンによる豪雨と言われている。 モンスーンの不安定性が関与しているのか、即ち、開始が遅れた反動なのか、単年度の例外的な豪雨だったのか、繰り返すのか専門家に聞いてみたい問題である。

 
    (三) 結びとして
 
1)  欧州危機に就いて
(i) この危機を海運用語で言えば「EU members are in same un-seaworthy boat」の状態であると言えそうでる。 従って、この解決(seaworthyにする)には長時間を要する見込みとなる。 総員退船はないと思うが、一部退船(離脱)はあり得ると思われる。 

(ii) 欧州危機の長期化は、中国経済が高度成長の終焉と安定成長期に突入するきっかけとなり兼ねない。 そうなれば、1985年以後の10年間同様市場の熱気が失われる事となる。

(iii) 財政危機のギリシャは「世界最大の海運国であり第2の産業である海運が非課税となっている」8月7日エコノミスト。 通貨統合後も主要な税制に相違がある事やEUからの支援が必要にも拘わらず海運を無税にする事自体奇異である。 少なくとも英国・ノルウェー等トン数標準税制を導入すべきである。 海運に対する無税制度はそもそもunfairである。 然も、無税によって得た余剰資金が新造船の投機的な投資に向かい過剰船腹の原因となっている。
 
2) 米国の旱魃に就いて
(i) 主食である小麦とは違いトウモロコシと大豆では不作の場合緊急度には差異があり、今回の価格上昇は一般の商品と同様販売減となる可能性が強く市況にはマイナスとなりそうである。 既に中国は備蓄のトウモロコシの放出を決定したと言われており、これも荷動き減の要因である。

(ii) 穀物の荷動き動向が市況を動かす主因となる例は少なくPanamaxBC以下への副次的な要因としての取り扱いが多い。 今回の不作がどの様に影響を与えるのか注目したい。

 
3) 市況への影響に就いて
(i) 欧州危機は海運市況の2番底となると言いたいが、既に底に張り付いているため不況の長期化をもたらす事となる。 米国の旱魃は若干のマイナス要因となると思われる。 何れにしても市場の自律性維持しており調整の期間を短縮する動きが強くなるであろう。 

(ii) 8月号で新造船用の厚板の価格を5万円程度と記載したが、「08年4月以降の韓国向けの価格は$800台でスクラップ価格の$775/ldtと大差がなかった。 最高値は中国向けの\12,500(7-9/08)であった」以上この場を借りて訂正します。