市況回復はスクラップ船の増加から 2012年8月掲載
   

海運業の特徴の一つとして投資対象である船舶の「新造船契約締結時からスクラップ売船(廃船)迄」が取引の対象となる事である。 福祉政策風に言えば、揺篭前の「受胎告知から墓場まで」が取引の対象となる事である。 この最後のスクラップ売船が、船主の最後のボーナスとなる。 そしてこのスクラップ船売買存在は市場の健全性と市況の自律性を維持する重要な役目を担っている。
更に、このスクラップ船売買は市況低落時に活況となる。 絵に描く様に鮮明ではないが、この活況の中に市況のボットムと市況回復の気配とを示唆してくれるものを数多く内在している。 海運の不定期船に最も要求され資質は、底流の変化をいち早く感知し行動を起こすことである。従って、スクラップ船の動向から一刻も目を離すことは許されない。

今回は、上記を念頭に置いてスクラップ船の価格動向を過去と対比しながら分析を加え、それについてコメントをすることとする。

   
(一) スクラップ売船の過去の対比
 
1)

量的な面に就いて
(i) 2011年のスクラップ売船は、41Mdwt(4,100万重量トン)と史上第3位の量となった。
  ・ 第1位はプラザ合意やS汽船が経営破綻した1985年の44Mdwtであり、
  ・ 第2位はその翌年の1986年の43Mdwtであった。
(ii) 史上最大のスクラップ売買された1985/1986年は、それまで世界で最強を誇っていた日本の鉄鋼、造船と海運の低迷が始まった年であった。 

1973年と1980の2回のオイルショックでタンカーは市場の健全性と市況の自律性を完全に喪失した年であった。  
一方のドライバルカーは中近東の鋼材とセメントの特需が一巡し、世界経済の不況と相俟って、過剰船腹が顕在化し、不透明感が最も強かった年であった。 
現在の先行き不透明感の強さでは類似した雰囲気である。 但し、根本的な違いはタンカーもドライバルカーも市場の健全性と市況の自律性が維持されている事である。

(iii) 今年2012年のタンカーを除いたドライバルカーのスクラップ売船をHowe Robinsonは「38Mdwt〜52Mdwtと予想し、それが現存の船腹の13%〜22%に相当する」と報じている。 ドライバルカーの市況、特に、大型船Cape-sizeBCの惨憺たる市況を見る限りに於いて、上限の52Mdwtに限りなく近づくと思われる。 更に、タンカーのスクラップ売船も考慮に入れると52Mdwtを遙かに越えることも予想可能である。
 
2)

価格の動向に就いて
(i) スクラップヤードにより価格に若干の差があるが、長い期間$500/idtを維持していたが、本年年初より約$100急落した。 然しながら、その後、$400弱で安定している。

(ii) リーマンショク前のピーク時には$775迄上昇した。 当時の新造船の厚板の価格よりも高かったと記憶(5万円弱=約500ドル)している。 最もバブルらしい価格であった。

(iii) 一方、史上最大のスクラップ売船の年となった1985年のタンカースクラップ売船の価格は$100の大台を割り$98/idtであった。
この年の春、ロンドンのZodiac社が中古のVLCCとCape-sizeBCを大量に購入した。 その時のVLCCの買船価格はスクラップ価格とほぼ同じ約$3M(=32,000idt x $98)であった。 余談ながら、3年後にVLCCの一部を$10Mで売却した。
 
3)

スクラップヤードの能力に就いて
(i) 現在のヤード能力は次の通り(as per Lloys’s List);
インド、中国;各4.5M、パキスタン;1.5M、バングラディッシュ2.5M、合計;13.5Milt 上記の他に、中国で1.5Midtヤードが3月Open予定であったが、未稼働である。 新たに、小規模ながらトルコが参入して来ている。

(ii) 2011年に関しては、稼働中の13.0Midtを越えスクラップ売買船された船舶はヤード周辺で解体待ちとなる。 今回のように$100低落した場合、VLCCで$3M強、CapesizeBCやSuez-maxTankerで$2M強の損失となる。 バイヤーの利鞘の取り分は$5〜$6と言われ少ない為、解体業者と受け渡し価格の再交渉が見られるとのこと。

 
    (二) スクラップ船売買の需給問題
取引の対象商品であり量と価格はスクラップ船の需給により左右される事となる。
 
1)   需要の問題 − スクラップを阻害する要因 
(i) 今後ラッシュするであろう船舶スクラップヤード不足が問題である。経済が不透明感を増す中では、買船後から解体までの時間が長ければ長い程バイヤーのリスクが大きくなり購入資金のファイナンスが難しくなる。 これは価格低落の要因となる。

(ii) 新造船ほど単価は高くないが、ドル高分を解体業者、終局的には消費者にヘッジする事は常に困難を伴う。

(iii) 4月〜8月までのモンスーン期間も阻害要因である。

(iV) 環境問題で、特に問題視されるのは2.5Midtの能力を持つバングラディッシュである。 環境保護と人権保護の団体からの圧力を受けている。 その影響で、引き合いで、最低2週間の余分な時間が要求されると言われている。

 
2)

 供給の問題 − 供給過多の継続   
(i) 海運市況から 
海運市況高騰の後は次の上昇に備えての船腹調整が必要である。 史上最高で最長の市況を謳歌した結果の現在の船腹過剰を主因とする海運不況は、船舶のスクラップの動きを益々強める事は間違いない。 それは避けては通れない道である。

(ii) 中国経済の成長率鈍化と市況への影響
ドライバルカーの市況を左右している中国のGDPの成長率が、第一四半期は8.1%であったのが、第二四半期は大台の8%を下回り7.6%となった。 欧州向けを中心とした輸出の低迷と内需の低迷等によるものである。
中国の低成長で問題となるのは、社会不安を醸成する失業問題と造船・海運に最初に顕著に現れた過剰投資の顕在化である。
  ・ 既に、具体的に生産活動鈍化に電力需要の需要減である。その結果、海上物流の第2位の一般炭の秦皇島の在庫が946万トンで平常時の600万トンより60%弱多くなっている。この石炭ヤードの能力は1,018万トンであり、満杯に近い状態となっている。  又「炭坑の人員削減の方向に進む事は避けられない」としており「更に、石炭産業に限らず失業問題が深刻化する」とFTは報じている。

  ・ 鋼材の需要と結果としての粗鋼生産への影響は終局的鉄鉱石の輸入量への影響は避けられない。 そうなればCape-sizeBCの不況の長期化と更なる悪化が避けられない。
 
    (三) 結びとして
 
1)  現在の様な厳しい市況では、海運市況のボットムは中古船のリセール価格とスクラップ船の価格が肩を並べた時である。 然しながら、今回の特殊性として鉄鉱石のシッパーの3社による寡占化で鉄鉱石の価格を人為的に高止まりさせている可能性が高い。これがスクラップ船の価格を支えていること事を否定できない。 従って、現在の鉱石の価格次第で水準が変わる可能性がある。
 
2)

 現在の海運不況に加えて中国の経済の不透明感の増大は複合して海運市況の更なる悪化と長期化をもたらし船主経済を悪化させる。 必然的に船舶のスクラップが増える事となる。 危惧されるのはスクラップヤード不足である。 放置すれば、スクラップ価格の暴落と過剰船舶調整期間が長くなり、その分海運不況を長引かせる事となる。又、スクラップの阻害要因の一つである環境問題は無視される事となり兼ねない

 
3)

 スクラップ船のテーマは、暗い話が中心となるが、前述の第2のZodiac誕生のチャンスが近づいていると言う明るい面を持っていることである。 市場が動けば収益を上げるチャンスが産まれるのが不定期船の特徴であるが、この動きが底流の変化であれば一層重要となる。但し、1985年以降10年以上に亘り新造船では、長期契約の保証がない限り収益を上げることが困難であった事は記憶に留めておくべきで、最も厳しい判断力と決断力が要求されるテーマである。

 
   

 

 

  無視できない中国の内航輸送の動向 2012年7月掲載
   

欧州に端を発した世界経済の不透明感の増大と海運の過剰船腹・造船の過剰設備で先行きの市況の悲観論が蔓延している。 この悲観論を緩和させてくれるとしたら中国の動向、その動向の中で内航の船腹需要である。 以前からドライバルカーに強気論を裏づける理由の一つとして取り上げられていたのが中国の内航の船腹需要増であった。 然しながら、情報の入手が困難である事と市況低迷が深刻化した事もあり忘れ去られていた。  処が、幸いなことに、Lloyd’s Listが5月15日と16日の2週に亘り中国の内航に就いての特集記事を発表した。 

今回は、最初にこの貴重なレポート概略を紹介し、最後にこの記事にコメントを付け加える事とする。
   
(一) 概略の紹介
 
1)

規模の壮大さ
(i) 14,500km(北海道から九州の約2倍)の長さを誇る世界最大級の臨海線を持ち、北部の産炭地から工業の発展が著しく人口密度の高い南部への厖大な石炭輸送と揚子江経由内陸部への輸送に対する船腹需要が、過剰気味の世界の船腹供給増を吸収している。

(ii) ニューヨークのシップブローカーのRS Platou によると2011年の内航の総輸送量は前年比20%増の11億トンとなっている。 因みに2005年の実績は1/4弱の4億トンであった。 今年になってもこの船腹需要の急増の勢いは、船混の増加で回転率の悪化もあり、変わっていない。
 
2)

内航船(Owned in China & HK)の状況
(i) 需要の急増は中古船の購入も活発になるが、ロンドンのシップブローカーのClarksonによると2009年には中国の内航船主が154隻の中古のBC(Bulk Carrier)を買船した。 その内、45隻のHandy-sizeと34隻のHandy-maxが含まれている。 殆ど船齢25才以上の老齢船であり内航に就航したものと思われる。
 但し、中古船の買船は2008年のリーマンショック後は陰を潜めた。

(ii) 新造船に就いては、2010年以降に世界で建造されたHandy-size(30-39,999dwt)とSupra-max(50-59,999dwt)のBCの約10%が独占的に中国の内航に就航している。 具体的は、2010年1月から12年3月間に建造されたこの船型の隻数が491の約1/4の116隻が内航に就航している。
 この間に中国で建造されたこの船型の隻数は491隻であり、その中の1/4が内航に就航した。 その年別の詳細は、2010年が62隻、2011年が49隻、2012年の 1/3月が4隻の合計116隻が内航に就航した。

(iii) リーマンショック後、中国は4兆元(4,860億ドル)の景気刺激策で内航の海上荷動きの増加傾向を維持した。 これは主に中国の鉄鉱石の輸入増が継続した事で、Cape-size入港可能な港からローカルの港への2次輸送の増加によるもので、2011年がピークであった。

 
3) 世界的に過剰船腹が問題化しているが、中国の内航船の廃船(スクラップ)が静かに進展している。 Clarksonの資料では、中国の船主は昨年103隻のBCが廃船された。 その内39隻がHandy-size、9隻がHandy-maxであった。 今年は29隻の廃船が内定している。 この船齢は平均28才である。 この船齢から見ると廃船の大部分が内航船だと思われる。
 
4) 結びとしてLloyd’s Listは次の事をのべている。
(i) この内航船をちゅうしんとした廃船増は世界の過剰船腹を吸収する事を意味し良いニュースである。

(ii) 寧ろ心配なのは、外航へ転用された船舶が、次回の内航の需要増の時に内航に戻って来るのか否かである。
 
    (二) 結びとして−上記に対するコメント
 
1)  11億トンの内航の荷動きがあるとの事で、改めて、その存在感と影響力の強さを認識させられる。 インドネシア炭と豪州炭が主流の一般炭の世界第2の日本の輸入量が1億トン強である。 これと対比すればその膨大さが容易に理解可能となる。
 
2)

 この膨大さは、産炭地が北部に偏在し、経済成長が著しく人口密集地である南部には石炭が産出しない事によるもので、従って、内航の荷動き量の約2/3を占めている。

 
3)

 この北部から南部への石炭の流れは変わる可能性を持っている。 既に、中国の一般炭の輸入が南部を中心に増加を示し、永年首位の座を守っていた日本を追い越し1億3,300万トン強となっており、今後も輸入炭異存の傾向が続くと思われる。 この傾向の進展を左右するのは輸入炭と国内炭の価格(CIF)次第であり、北部での石炭に対する需要動向次第である。 一般炭のスポット価格が注目点となる。

 
4)

 リーマンショック後の不況対策で4兆元の刺激策は輸入を増加させた。 特に、鉄鉱石輸入増が2次輸送用の内航船需要増に繋がったとの指摘は新鮮味がある。 今週の中国の金融緩和策が発表されたが、金融緩和だけでは、輸入増や2次輸送増等の物流増とはならないかも知れない。

 
5)

 鉄鉱石の2次輸送に関して、ValeのフィリッピンのスービクベイでのVale-maxから小型船へ積み替え中国のローカル港への配送は中国の内航船主に取っては歓迎されない事である。 本来内航の荷物が国際マーケットに曝され、浸食されるからである。

 
6)

結びとして − 上記に対するコメント
先行きの市況については、Lloyd’s List程の楽観には抵抗を感じるが、中国の内航船市場の大きさで、PanamaxBC以下の船型ではその影響は無視できないと思われる。 特に、老齢船が多いだけに、この部分から船舶調整が早く進可能性は否定できない。 但し、Cape-sizeは共通場が無い為、内航船市場からの直接的な影響は小さいと思われる。  困るのは、内航市場の情報の入手が困難である事である。

 
   

 

 

  小さかったイラン問題のタンカー市況への波紋 2012年6月掲載
   

1月23日7月1日よりイラン原油の輸入禁止が通告された。 これをきっかけにタンカー市況は活況を呈している。資料1参照、昨年の冬場の市況と対比すると最高値は昨年に軍配が上がるが、安定性と期間に於いて今年の方が歓迎すべき状態となっている。これはイラン原油輸入禁止が最大の要因の一つであると思われる。本来であれば、生産余力があるサウジ原油で穴埋めされれば、量的に穴埋め可能であり、その場合はトンマイル的に大きな変化はない。 然しながら、避けて通れないのがホルムズ海峡封鎖の可能性である。 この問題の危険度をどう見るかにより原油価格とタンカー市況に影響を与える事となる。
今回は、昨年のタンカー市況の推移と比較しながらその実体的な動きを中心に整理・分析を行うこととする。

   
(一) 主要各国の動き
 
1)

米国とサウジアラビヤ − 禁輸の動きで最初に対応
(i) 3月中旬、サウジのVelaが米国向けを1週間に9隻のVLCCを成約した。 これは程多数の隻数を成約するのは初めてである。 昨年は2ヶ月に1隻だっただけにこの航路のトンマイルが長いこともあり船舶供給がタイトとなり2月後半に軟化傾向を示していたのが消え堅調を取り戻した。 この対応の背景は、イラン禁輸の旗振り役の米国の当然の動きである。 ホルムズ海峡が閉鎖された場合の原油価格暴騰を抑制の為に備蓄の大量放出の準備をしたと言えそうである。

(ii) サウジの生産能力は12.5mb/d(million barrel per day)と言われている。 2011年の実績9.05mb/dより約3.5mb/dの増産能力があると言える。 一方、イランの昨年輸出実績2.4mb/dが7月以降1/3程度になると予想されている。 即ち、イランの禁輸は1.6mb/dが市場から姿を消す事となる。  但し、この数量はサウジの増産能力の範囲内であり心理的要因を別にすれば大きな混乱は発生しないと言えよう。 

(iii) 5月上旬に隻数不明ながら、再度Velaが傭船を活発化させ、ピークアウトしかかっていたタンカー市況を支える動きがあった。 日韓の精油所の定期修理による需要減で市況が軟化する時期にも拘わらず堅調を維持している。
 
2)

EU − 保険問題で影響
(i) EUは、正式に1月23日に7月1日よりイラン原油の輸入禁止を通告した。 その手段は再保険を受け付けない事でタンカーの配船が不可能となることである。 但し、イランのNITCのタンカーによるエジプトの紅海側のEin Sukhna揚げの原油は禁輸の対象になっていない。 尚、同港で荷揚げ後SuMed pipelineで地中海のSidi Kerir迄移送され、サウジ原油と混合(ほぼ半々)して輸出船積みされている。 この輸出の中にパイプとタンカーでスエズ往復することとなる中国向けも含まれている。

(ii) 英国とイタリヤは1月23日に禁輸に踏み切った。イタリヤの場合、昨年とは違い対岸のリビヤ原油が順調に輸出されている為イランの原油は不必要である。 EU共通の状況(主要4カ国の1-3/12の輸入量は−5%)でもあるが、英国は北海やアフリカ原油の輸入でイラン禁輸の影響は小さい。 

(iii) 世界の海運会社の90%が加入している船主相互保険は主にロンドンに再保険されている。 従って、この再保険が停止されると国家が保証しない限り危険が高く配船は不可能となる。 その他に、貨物と船舶保険もあり配船は不可能。

(iv) 印度はイランへの配船を継続する。 これが可能なのは、政府の命令で国営の保険会社、GIC(General Insurance Corp of India)に再保険の役目を担わせ政府が保証しているからである。

 
3) 中国の動き − 輸入ソースの分散
この種の事件は市場の底流を早める働きをするが、イラン原油の禁輸は輸入先のソースの分散化を早める事となっている事も否定できない。

(i) 禁輸とは直接の関係がない輸入量に関しては、2011年の輸入量2億5,231万トン、月平均は2,126万トンであった。 一方、1-3/12の輸入量は7,600万トン、月平均2,353万トンで11.2%増となっており、量的な面でも今回の市況の堅調に寄与している。

(ii) 資料2参照、中南米からの輸入が増えている。 その主たる理由は、中国がベネズエラの最大の320億ドルの債権者であり、その返済に原油を使用しているからである。 更に、中国は重油の需要が大きい事でベネズエラやブラジルの重質油が歓迎される事も一因である。

(iii) イラン原油の減少分を大西洋ソース(西アフリカ、地中海、北海、カリブ)で穴埋めする 為に、5月〜6月積みでVLCCを8隻、Suez-max2隻計10隻を傭船した。 これは中長期傭船でないことでスポット成約増と同じ意味を持つもので、現在の堅調維持の一要因である。 (iv) 中国は印度とは違い国家による保証はされていない。 従って、イランへの配船は困難となり、大西洋のソース増加の傾向に拍車を掛ける結果となっている。
 
    (二) イランの輸出状況
 
1)  今回のイラン禁輸の影響で、3月の日本向けと中国向けも約50%減と急減している。
 
2)

 最終的にイランの昨年輸出実績2.4mb/dが7月以降1/3程度になると予想されている。 即ち、1.6mb/dが市場から姿を消す事となる。 1.3mb/dのリビヤの禁輸より300kb/d多く市場から姿を消す事となり価格面ではリビヤ紛争以上の影響が出そうである。

 
3)

 但し、Ein Sukhna向けは変化がない。 これが禁輸の対象となるとトルコやイタリヤ向けが他ソースに変わることとなりトンマイルに多大の影響を与えそうである。

 
    (三) 結びとして
 
1)  資料1参照、昨年の冬の需要期(4thQ/10〜1stQ/11) と今年と比較すると、大きな差異は例年5月の日韓の製油所の定期修理で市況は軟化するが、今年はそれがないことである。 これは定期修理に伴う需要減よりイラン禁輸影響が大きい事を意味している。
 
2)

ホルムズ海峡が封鎖に関して
(i) ホルムズ封鎖で第3次オイルショックとなった場合、原油価格は$150となると言われている。 タンカーの暴落は勿論のこと高エネルギー価格によるインフレで世界経済の停滞は避けられないであろう。

(ii) 但し、原油価格に関しては、次の2点でホルムズ海峡封鎖に懐疑的である。
  ・ 2011年4月のブレントの平均価格が$110.15であり、一方、本年4月の平均価格は$103.34と安価である事 
  ・ サウジは6月の原油価格を現在より安値での輸出増で動いている事

(iii) オイルショックが発生した場合、タンカー市況へ与える影響は昨年春の豪州の洪水により石炭の輸出が休止によりCape-sizeBCの転配先がなく市況を低落させたのと同様の事態が予想される。但し、数量面とVLCCの転配先がないことでそれより厳しい暴落となると思われる。 

(iv) 結びとして、資料1参照、今年の冬場の市況は、VLCCの過剰船腹で期待感は希薄であったが、
 ・  米国が3月と5月上旬のサウジ原油を備蓄増し積みの動きがあった事で堅調のきっかけと5月までの好市況維持となった事
 ・  中国の原油ソースの大西洋比率増で1月以降のイランの輸出減を穴埋めしてお釣りが出る状態となった事
予想より長く然も安定的な市況となった。従って、原油の海上荷動きの40%を占めるホルムズ海峡が封鎖されない限り大きな混乱はないと言えよう。

(v) 今後の市況に関しては、新造船の竣工が61隻とピークを迎える事と米国の3月と/5月の様な戦略的な需要増が期待できない事を念頭に置いて判断すべきであろう。
 
   

 

 

  中国とValeの大攻防戦 2012年5月掲載
   

昨年の11月号で「迷走が続くValeのULOC」で混乱振りを述べたが、1月末中国は最終的に350型(350,000dwt)を入港の最大船型とすることで決定した。 これに関して、欧州の海運関係筋では、世界最大の鉄鉱石輸入国(6億8,680万トンと世界の62%を占める)と世界最大の鉄鉱石の生産者であるValeとの大攻防戦「Big Fight」だとやや揶揄的にコメントしている。 
   揶揄的と言わざるを得なかったのは、中国は経営不振に喘ぐ中国船主の救済を第一に考えた見え見えの決定である事。 一方のValeは鉄鉱石の売り手市場は寡占のお陰で大きな変化はないが、400型のVale-maxを35隻発註すると言う海運市況が船主有利の市況が継続すると言う楽観的な判断を下していたのが覆され、その結果が迷走の原因だからである。 即ち、海運市況が堅調であれば今回の様な迷走は発生しなかった。

  今回は昨年11月号の続編としてその後の展開を申し述べ、新たな問題点を整理・分析する事とする。 但し、内容の重複が避けられないこと予め承知置き願いたい。

   
(一) Vale-maxのその後の展開
 
1) 中国のRongshengで建造の12隻の推移が注目された。 第一船はDWTを400型から380型へ変更された。 これは中国建造でDWTを小さくする事で中国への入港許可が取り易いとの思惑で、設計変更無しでDWTを小型化したと言われている。 然し、正式な入港許可は出なかった。
 
2) 悪いことに韓国建造で傭船のVale Beijingが処女航海でブラジルでの積荷中に船体に亀裂が入った。 この原因が船舶の構造上の問題なのか、積み込み側の責任なのかが問われる事となる。 本船の船級協会は当然の事乍、荷役が原因であると言っている。 最終的には海運会社とValeの交渉となると思われるが、私企業間の交渉であり結果が公表されることはないと思われる。 但し、Valeにとっては原因がどうあろうと航海非適格船(un-seaworthiness)として傭船停止(off-hire)が可能で助かった。 然しながら、この事故が本船の安全上問題ありとして中国運輸省の入港拒否の口実を作った。
 
3) 年末、大連港湾局の許可で同港にVale-maxのBerge Everest(388型)が初めて入港を許可された。 この時点迄は地方の港湾局の裁量で決定されていた。 然しながら、Vale-maxの入港許可はこれが最初で最後となった。
 
    (二) 入港拒否に関連して
 
1)

中国側の動向
(i) 中国の運輸省は、古い規定を持ち出して地方港湾局が慣習的に持っていた決定権を取上げ、1月20日350型を最大入港船型と決定した。 理由としては安全と環境問題(船体に亀裂でバンカーが漏油する)である。 この350型は以下とは、新しい船型ではなくVLCCの鉱石専用船への改装された船型を含める為の措置である。 VLCCを積極的に改装したのが主に中国の海運会社だったからである。 これらの中国運輸省の動き、即ち、400型の入港拒否も350型なら容認する措置に対してもロンドンの業界紙は自国の船主保護の方針を隠す「まことしやかな」な説明だとして悪評である。

(ii) 中国の鉄鉱石の揚港はRizhao, Qingdao, Tianjin, Fangcheng と Dalianの5大港で輸入鉄鉱石の75%を扱っているが、問題は日本のミルとは違いこの港から製鉄所までの2次輸送が必要であることである。 その上ストックヤードが小さいことである。 港頭在庫は現在1億トン強と言われ、各港とも100%を越える在庫を抱えており、40万トを1隻の船で持ち込まれても困る状態でもある。 鉄鉱石の需要の頭打ち傾向が顕在化している様子も伺われる。

(iii) Vale-maxの入港拒否は、中国の内航船主(国営の鉄鋼ミルや炭坑の子会社が多い)には逆風である。 Valeは、Vale-maxで鉄鉱石をフィリッピンでVLCCを改装したVLOO(Very Large Ore Carrier)に仮揚げし、そこから中国へ配送する計画が始まっている。 これは、上記5大港からの2次輸送の貨物減とスービックベイ積み替えの鉄鉱石分が外国船と直接競争に曝される事となり中国の内航船主にとって新たな懸念材料となっている。 更に、内航船主は英語が使えないとも言われておりリクルートも必要との事である。

 
2)

Vale側の動向
(i) 上述の通り米軍の基地があったフィリッピンのスービックベイにVLCCを改装した洋上積替設備船を係留し積み替えを開始した。 その第1船はValeの社船Ore Fabricaである。 第1船と言う表現は複数以上の積替設備船を使うものと思われる。 Ore Fabricsを真ん中にVale Brasil(Vale-max)とOre Panternal(中国向けCape-size)と左右に横付けして鉄鉱石の洋上積み替え作業中の写真と記事を3月7日付の日本海事新聞社が報じている。
フィリッピンから中国向けはPanamax以下の船型を予想していただけに意外感を持たされた。 言い換えれば、Cape-sizeの市況の低落振りを象徴する写真とも言えそうである。  然し、本来は近海船市場でありその市況には好影響を与えることになろう。

(ii) 2014年完工でマレーシャに鉄鉱石の配送センターの建設がスタートした。 Cape-sizeの貨物であったのが、可成りに部分が中型船型で輸送される事となる故この船型は荷動き増でプラスとなる。 又、海運市況の予測の調査項目に新たにこのマレーシャの在庫量が要因として登場することとなる。

(iii) 35隻のうち9隻が竣工(3月現在)、残り26隻を計画通り建造し、方針は変えないと宣言している。
 
    (三) 結びとして − 海運の立場から
 
1)

(i) この輸入禁止の解消策は、交渉よりも中国の鉄鉱石の需要が急増し海運市況が回復する事である。 その水準とはアジア揚げのブラジルの/鉄鉱石の運賃が$30近くまで上昇する事である。 尚、現在のスポットの運賃は$19前後である。 一方、Vale-maxのコストは$20〜$25と言われそれより安くなっている。 即ち、低運賃の大型船の魅力の喪失である。因みに、リーマンショック前の最高運賃は$109であった。

(ii) この様な事態になっても上記の宣言通りValeとの造船契約破棄は起こり得ないであろう。 設計を変えずに350型に船型を変更して市場に参入する事も可能である事と上記のスービック湾や2014年完工でマレーシャに鉄鉱石の配送センターの建設の計画もある事で400型建造を取り止める必要がないからである。

(iii) 今回の攻防戦は、Valeが鉄鉱石の売手市場と海運市況高騰の継続が当分続くと予想したが、船腹過剰で海運市況は暴落しておりこの内の半分がはんだんミスとなって発生したものである。 更に、常識的には35隻のVale-maxの巨額の投資計画を立てた市況高騰中に中国への根回しをやるべきであった。 職務怠慢と言うより鉄鉱石と海上運賃の売り手市場が継続すると言う傲慢さに由来していると見るべきである。 更に、Valeが留意すべき事は、鉄鉱石を含め原料の需要の減少は競争力の弱い遠距離ソースから始まる事である。

(iv) 中国の船主協会は船腹過剰で暴落した市況を更に悪化させるとして400型には猛反対である。 昨年の5月から3年間で35隻建造することは、通常の毎月1隻、180型の標準船に換算する毎月2隻の船舶が参入することを意味する。 これは船腹過剰を増幅させるもので中国船主協会に限らず世界の船主にとっても歓迎すべき事ではない。

(v) 海運界として困るのはValeだけではなく豪州の2社共々CIF用の支配船腹を輸出量の30%相当分に増やす計画を持っていると言われている事である。  
 この問題をVale-maxの35隻で大雑把に計算すると下記となる;
(A) その年間の輸送量は約7,000万トン(=395,000MTx35x5voyages)
(B) 2012年のブラジルの輸出量は3億3,000万トン
(A)/(B)=21%となる。 輸出量が10%増加したとしても20%弱を占めることとなる。この他に既存のCIF契約船があり30%を遙かに越えることは間違いない。

昨年暮れのCape-sizeの高騰と新年早々の暴落は鉄鉱石生産者の3大手が寡占を利用して運賃を人為的に左右した結果だと言われている。 事実であれば、今後は再三に亘り市場はこの様な不安定に曝されることなる。 ケープサイズの市況に対する影響力が益々強くなる事であり海上輸送と言う海運の既得権の侵害でもある。 然も、Exxon Valdezの事故の結果を見るまでもなく危険物輸送のタンカーとは違いドライバルカーへの投資の歯止めが小さい事もあり大いに憂慮される事態である。
 
   

 

 

  下がり過ぎのドライバルカー市況 2012年4月掲載
   

ドライバルカーの市況も暴落している。2月3日にはBDIが647と1986年以来の低水準となった。 3月9日現在824と若干回復したが、1000を大幅に下回る状態で低迷している。 

資料1参照、2011年のドライバルカーの市況は大型のCape-sizeの独歩安が続き、秋口に中型並の水準に回復したが、新年早々、大型・中型ともに暴落した。 今回は、2011年のデーターが揃ったところで、その背景を分析整理することとする。
   
(一) 鉄鉱石の荷動きに就いて − 資料2参照
 


(i) 鉄鉱石の輸入に関しては、日本以外は順当に増加した。 特に、中国は前年比67.90MT(11%)増であり、2009年から2010年の輸入量が-11.2MT(=-1.8%)比較すると、運賃が上昇しても不思議ではなく低迷が信じ難いものであった。

(ii) 鉄鉱石の輸出に関しては、資料3参照、印度鉱石13.4MTの輸出減の代替ソースがブラジルであれば主要船型のCape-sizeの市況にプラス要因となると予想したが、増加率から近距離の豪州からの輸入増となったと思われる事とロシアから鉄道による5MTの輸入増が印度の代替ソースの役目を果たしたとも言える事で印度の鉄鉱石輸出減のCape-sizeへの影響は小さかったと言えよう。 然し、この輸出減は中型船型にはマイナス要因であった。

 
    (二) 石炭の荷動きに就いて
 

(i)  原料炭に就いては、昨年早々の豪州の洪水の影響と需要増もあり、需給がタイトな状況で価格が高止まりの状態が続いている。 これは米炭等の遠距離ソースからの輸入増となった。

・昨年の四半期ごとの価格は次の通り。 1stQ: $225, 2ndQ;-330, 3rdQ;-315, 4thQ(現在);-$285
・ 米炭の輸出が11.6増(24.3%増)の59.4MT, 主な仕向地は次の通り。 
中国;-4.2MT, 印度;-3.5MT, 日本;-5.6MT、韓国;-4.9MT、4国合計で18.2MTとなる。 
この輸送は、航海距離が長い事とNOLAやMobile積みもあり殆ど中型船により輸送されたものと思われる、
従って、この船型の市況を支えた最大の要因の1つと言えよう。

(ii)  一般炭に就いては、資料4参照、 表にはないが南ア炭が3.9MT減の64.3MTとなり豪州の伸び率が1.5%と陰りが見えている。その分インドネシア炭の増加しており世界の輸出量の42%を占めるに至った。 量的に順調に増加したが、近距離ソースだけに量の増加ほどトンマイル増とはなっていない。 尚、大西洋での中型船の新年の低迷は欧州の需要減が原因と言われている。

(iii) 中国と印度の石炭輸入状況

・ 中国;− 11年は16.9MT(10.2%)増の183MT増となった。 石炭の総輸入量でも日本を凌駕した模様。 
気になる事は10年の対前年比の増の39.7MT(+31.4%)と輸入増加量も率も共に減少し陰りが見えだした事である。 又、米炭意外ではトンマイル面では魅力がない事である。 即ち、インドネシア(35.7%)、豪州(17.8%)、ベトナム(12%)等の近距離ソースが66.6%を占め、更に、鉄路で輸入される蒙古炭が11%を占めている。 従って、市況への影響は小さかった見るべきである。

・ 印度;− 11年は17.9MT(17.9%)増の125.9MTとなり、韓国に続く第4位の輸入国となった。 然し、インドネシア(58.2%)、豪州(23.9%)と南ア(13.7%)の近距離ソースが95.8%を占めており中国以上に近距離ソースの比率が高くトンマイルの大幅増とはなっていない。
 
    (三) 穀物の荷動きに就いて
 

穀物で市況を分析することは、鉱石や石炭の様に経済的要因により市況への影響を与えるのとは違う事と穀物の備蓄が進み緊急度が和らいでいる事、単年度で不作と豊作が変わる事等で困難を伴う。目下インパクトが強いのは流動性が高い中国の大豆の輸入動向である。

(i)  11年の大豆の輸入実績は下記の通り。
米国;-224MT, アルゼンチン;-7.8MT, ブラジル;-20.6MT、合計;-52.6MT10年より2.2MT(4%)減となり中型船の市況の堅調を維持させた要因とはならなかった。

(ii) その他、世界の穀物の輸入実績
飼料3.4M(5.8%)増の62.5MT、小麦は5.7MT(7.4%)増の83.2MT

飼料動向は市況には影響しなかった。 然し、小麦に関しては、米国の輸出が前年比9.2MT減となっている。 代わりに主に2年連続豊作となった豪州の1.7MTとその他のソース(EUとウクライナ等)の20MT増となっている。 量的には可成りの増となっているが、トンマイル減を差し引いて考えると大きなインパクトとはなっていない。

 

 
    (四) 船腹供給面
 

(i)  船型毎の船腹数の推移
Cape-size  :- 純増170隻(14.3%)、発註残401隻(32.2%)内12年竣工が306隻(22.6%) 
Panamax :- 純増219隻(12.1%)、発註残768隻(37.9%)内12年竣工が518隻(25.6%)
Handymax :-  純増300隻(14.0%)、発註残649隻(26.3%)内12年竣工が443隻(18%)
以上の純増だけを見れば15%以下である。上記の荷動き増を見る限りに於いて、下がり過ぎの感がする。

(ii) 2011年の船型毎のスクラップの推移表と1月1日の隻数
Cape-size  :- 67隻(5.8%)、1352隻
Panamax :- 71隻(3.9%)、2026隻、 
Handymax :-  44隻(2.0%)、2463隻
本格的な不況に遭遇し船腹の調整が進んであるのはCape-sizeのみであり、この傾向は継続しそうである。 中型船以下の船型のスクラップが遅れているが、昨年の市況から見て当然である。 言い換えればスクラップの余地が充分あることを示している。
2月3日以降Handymaxの堅調でBDIが緩やかに上昇傾向を示している。 この船型が経済的要因だけ影響を受けない為安定的だが、ごく最近迄発註が続いた事で過剰船腹の気配が濃厚となっており楽観は許される状態ではない。

 
    (五) 結びに代えて
 

(1)海上荷動きに関しては、上述の通り順調に伸びており荷動き減になったのは一部の穀物のみである。 その分だけ見ると1986年来の暴落の理由を見つけるのが難しい。 精々,需要側からのインパクトが新鮮さを欠き小さくなった所為であるとしか言いようがない。 

(2)過剰船腹に関しては、(IV)参照、15%以下の純増では低落し過ぎの感は否定できない。寧ろ今年竣工予定の新造船の隻数が心理的に圧迫している面が強いと思われる。 純増は、竣工繰り延べ要請やスクラップ増と造船契約破棄(今年は多い)等で可成りの減少が予想される。

(3)1986年来というのは下がり過ぎで納得できない。 この1986年とは世界に冠たる状態であった日本の鉄鋼・造船・海運(不定期門)が世界一の座から滑り落ち始める歴史的な構造変化の年であり低迷期の始まりであった。 現在の中国をその時の日本と同一視する事は時期尚早である。 中国が安定成長期に入ったと見るべきか否かが、現在の注目点である。

(4)上述の需要側と供給側を見ると市況の自律性は維持されている。従って、今年の市況は、鉄鉱石シッパーの集中的傭船で上昇した年末のCape-sizeの様に小さな要因でも敏感に反応する事はあり得るが、動きは小幅に終始すると見るべきであろう。 

(5)過剰投資は何故起こるのか、その理由は海運市況の水準がスポット市場での成約で決定されている事である。 このスポット市況は少数のフリー船の引き合いの結果である。 少数で懐が狭い分過度に反応して振幅を実態以上に大きくする傾向がある。 そしてそれが恰も全体の船舶の需給で決定されたとの錯覚が産まれる。 この錯覚が今回も過剰投資を呼び市況を悪化させた。 又、現在のBDIの暴落も過度に反応の錯覚の結果であると言える。 海運を取り巻く環境の厳しさを否定はしないが、現在の1000を大幅に下回るBDIの水準は低すぎると言えよう。、但し、過剰船腹の調整には有効で歓迎すべきかも知れない。

 
   

 

 

  Frontlineの合理化とトン税固定制度の必要性 2012年3月掲載
   

現在の海運市況は、史上最長・最高のマーケットの当然の帰結として造船の過剰設備と過剰船腹を惹き起こし26年ぶりの暴落となり、企業の大小を問わず万遍なく影響を与えている。 
早急に合理化しないと新年早々には資金不足で経営危機となるといわれた世界的に高名(world highest profile)のMr. FredriksenのFrontlineも例外ではなかった。 同社の経営方針は多くのタンカーオペレターに多大の影響を与えていただけにこの合理化案は新たなインパクトを与える事となると思われる。

今回は、Lloyd’ Listの1月3日号に合理化の内容の記事が掲載されたので、この紹介と合理化案についてのコメントをすることとする。 但し、一私企業の合理化であり類推が入ることは避けられないことを予め承知置き願いたい。
   
(一) 合理化の内容
 

昨年の暮れ統合会社を目的(to seek a consolidator)としてFrontline12の新会社が設立された。 Frontline同様、Hemen Holding(Mr. Fredriksenのprivate companyと言われている)を通しての投資であり、Mr. Fredriksenが筆頭株主であることに変わりはない。 

(i) Frontline12がFrontlineの債務引取りと資産購入の明細下記の通り;
 ・ 船舶は11億2,100万ドル、その明細は下記の通り;

  5隻のVLCCの新造船契約
  6隻のVLCCの買船、うち1隻は傭船契約付き
  4隻のSuez-maxの買船

 ・負債の引受額は、6,660万ドルの売船損と3億2,550万ドルの新造船の建造費で合計3億9,210万ドル。
 ・以上の結果、Frontlineの6億7,900万ドルの負債がゼロとなった。 現在の支配船腹は50隻から40隻に減少した。

(ii) 新会社Frontline 12が傭船料値下げ交渉
Frontlineから引き取った2012年から2015年の傭船契約を関係船主(Financer)と総額3億2,000万ドルの値下げ交渉にて合意に達した。 但し、市況が原契約を上回る傭船市場となった場合、見直しの条項付きとなっている。

 
    (二) 合理化の評価
 

(i)  合理化発表後のFrontlineの株価は、前日比では4%上昇のNKr26.39となった。 11月23日の最安値NKr15.05より75%上昇となっており、Frontline 12と合併の可能性が大きいこともあり、市場は安心感と好感を持っている。

(ii) また、RS Platou Marketsは、合理化の結果、MaerskやDiana Shipping 並みの資産内容となったとして好評価を下している。

 
    (三) 合理化に就いて
 

(i)  5隻のVLCCと4隻のSuez-maxの売船損の総額6,660万ドルの損は予想以上の少額である。 経営不振会社の船舶の簿価は高いのが一般的である。 従って、必要に迫られて売船売船する場合、多額の売船損が出経営不振を高める傾向がある。 然し乍、売船損は$6,660万ドルである。 日本のトン数標準税制と類似の税制を導入しているノルウエイだからあり得ることだが、好況の高収益時に多額の償却を行ったとしか考えられない。

(ii) 6隻の新造船の引き受けた金額の3億2,550ドルは、Frontlineが造船所への分割払い分は除外されていると思われる。 Frontline 12は市場価格の半値の船価で取得したこととなる。 将来、非常に強い競争力を持つこととなる。

(iii) 傭船料の値下げの交渉を一方的ではなく合意に達したことと市況が好転した場合は見直しの条項付で、望ましくはないが、仕方がないことだとして容認せざるを得ない。 傭船料の未払いで船舶を差し押せてから交渉するよりスマートである。

(iv) FrontlineはBPと運賃設定無のCOAを先駆的に決めた会社である。 このCOA方式は、ドライバルク部門まで波及し一般化した。 このCOAが船主にとって市況低落時のリスクヘッジにはなるのか疑問視していたが、結果は合理化に追い込まれたFrontlineが証明する形となった。 尚、このレポートとは直接の関係はないが、このCOA方式がスポット市場の活気を削ぐ働きをして市況のマイナス要因となっている。 更に、傭船者も船主も先行きの市況予測の判断能力を弱める形となったと言っても過言ではなさそうである。

(v) 今回の合理化の成功は税制だけではなく、市況に煽られ背伸びした新規投資をせず高収益を不況に備えて内部留保していたことも理由の一つである。 敏速な対応と合わせ個人企業の長所が現れた好例の一つと思われる。

 
    (四) 結びに代えて − トン数標準税制の導入を
 

(i)  今回のスムースな合理化は、自由償却で不況対策での売船損が負担にならない状態にしていたことに起因すると考えてよさそうである。 日本の海運はこの税制の導入無しでは世界の海運界で競争することは困難で不可能に近いことを証明する合理化案である。

(ii) 中国主導の前回の海運市況暴騰時の海運市況は流動的で激しく動く傾向を顕著に示した。 その分高収益のチャンスが増えるため結果として安定経営の基礎となる長期傭船の比率が低下した。 従って、安定経営の方策は、好況時に償却を多くして不況に備えて船費を安くすることが中心となる。

(iii) 現在の海運不況には残念ながら間に合わないが、トン数標準税制導入の客観情勢は好くなっている。 高収益時代に導入を要求しても、節税のためとの誤解を招きかねなかったからである。 然し乍、この家運大不況で、今ほど反対意見を説得するのに容易な時期はないと思われる。 次回の市況に備えての最大の努力をするべき時だと思われる。 これがFrontlineの合理化成功から得た貴重な教訓の一つである。

 
   

 

 

  昨年末上昇したタンカーマーケットに就いて 2012年2月掲載
   

2011年はドライバルカーとタンカーの不定期船部門の市況は惨憺たるものであった事は1月号で述べた通りである。 その中で最も厳しい状態に置かれていたのがタンカーである。 オイルショックの後遺症が残っていた「1994年以来の低水準」と言われた。 雰囲気的には当時タンカーオペレーターの最大手の1社だったLexton社が破産したオイルショック時を彷彿させる状態となった。 処が、その雰囲気を否定するかの如くドライバルカーに追随して11月より年末にかけてWS60を越えやや回復の兆しが見えている。 

今回は、年末上昇したタンカーマーケットが新年早々に低落したドライバルカーの後を追いかけて軟化するのか、堅調を維持するのか、今後の市況を分析することとする。
   
(一) 需要面
 
1)

期待薄のOECD諸国の需要増
鉄鉱石輸入とは違いOECDの需要動向が世界最大の輸入国が米国で2位がOECD EUである。 2010年に日本を追い越した中国が第3位である。 欧州は地中海諸国の財政赤字の増大に端を発した信用縮小と日米の経済不振で荷動き増は期待できない。

 
2)

中国の原油輸入動向
タンカー市況は、世界第3位ではあるが成長率の高い中国の輸入動向次第である。

(i) 輸入量
前年の2010年比較6%の1,479万トン増となった。 2010年の増加率17.8%と比較すると1/3の伸び率である。 その分市場へのインパクトが弱くなっている。

(ii) 輸入先別の比率
 資料2参照、トンマイルの面から見ると前年比マイナスである。 目立つのはアフリカ原油の比率の低下とその穴埋めとしての中近東原油比率の増大である。 今後マイナス要因として無視できないのが油送管による輸入を含んだ旧ソ連からの輸入増の可能性である。

(iii) 期別の輸入実績 
資料1と3参照、第二と第三四半期の夏場の輸入量が減少し運賃が軟化し、冬場は輸入増
運賃上昇となっている。 季節的要因の典型的な例となっている。

 
    (二) 供給面
 
1)

竣工数とスクラップ隻数の推移

(i) 竣工数ではドライバルカー同様月間では1月が最高の9隻であったが、需要期であった事とリビヤ混乱とで市況で新造船の竣工増の圧力を吸収した。資料1参照。

(ii) スクラップ隻数
昨年のスクラップ隻数8隻と市況調整期としては非常に少なかった。 但し、DHのVLCCの2隻が5月(初めて)と12月にスクラップ売船され話題となった。 今年はスクラップ売船のラッシュが予想され、鋼材市況にもよるが、スクラップ価格も軟化傾向を示すと思われる。 尚、オイルショック後のスクラップ価格は$100を切った例もある。

 
2) ドライバルカーより厳しい資産価値の下落

年末のLloyd’s ListがVLCCの資産価値(市場価格)について記事の中で、次のような前年との対比表を発表した。

 

A新造船

B船齢5才

C船齢15才

2011年

$99.5m

$58.8m

$20.5m

2010年

$105m

$83.4m

$31.2m

値下り率

△5.2%

△29.5%

△34.3%

(i) オイルショック後との比較 
1973年の第一次オイルショック後半値になったのが、1980年の第2次オイルショック後、更に半値となった。 即ち、$120mが$60mとなり最後は$30mとなった。 それと比較すると明らかに自律性が維持されている事を証明していると同時に格段の差がある。

(ii) 過剰船腹の反映
中古船の船価は、購入(投資)後、直ちに市場に参入する為、目先の低運賃を直截的に反映する。 従って、その分値下がりが激しく建造コストから乖離する傾向が強い。 一方、新造船価格の値下りが小さいのは、受注時からunknown factorが多い2/3年後のしかも中長期の市況を念頭に置いて引き合いがなされる事で目先の低運賃の影響の度合いが軽い事と造船会社がコスト割れの赤字受注を避ける努力をする事等の理由によるものである。  

因みにCapeBCの値下り率はA10.8%,B23.8%,C28.4%で、厳しいながらもVLCCより下落率が若干小幅である。 下落幅の大きいVLCC方の調整が速まり回復も早いかもしれない。
 
    (三) 結びに変えて
 
1)

唯一のプラス材料の季節的要因
資料1参照、昨年11月からWS60台を維持しているが、これは冬場の需要増という季節的要因によるものと言えよう。 現在のラニーニャによる北東アジア(上海以北の中国と日韓)の厳冬は原油の需要にプラスとなり歓迎さるべき気候である。

 
2) 不可避な調整
海運業を含めた市況産業は、市況上昇後の調整を経過しないと回復しない。これは市場の自律性維持の基本的パターンだからである。  Lloyd’s Listの1月4日付けで「dog-eat-dog 2012」の記事があった。 望ましいことではないが、EU発の信用不安と成長に陰りが見えてきた中国の経済次第ではこの記事の先見性が評価されることとなる。
 
3)

最後に留意すべき事はイラン問題の帰趨である。

資料1

資料2 中国の原油輸入先別の比率

 

中近東

アフリカ

中南米

旧ソ連

その他

1-10/11

46.2%

21.7%

8.3%

10.7%

13.1%

1-10/10

43.0%

27.2%

7.8%

9.7%

2.6%

資料3 2011年中国の期別の輸入量

第一四半期

63,416KT

95

第二四半期

62,792KT

94

第三四半期

60,927KT

91

第四四半期

66,647KT

100

資料4 過去1年間の竣工隻数とスクラップ隻数(As per Clarkson)

 

竣工

スクラップ

期末隻数

第一四半期

16

1

553

第二四半期

18

4

563

第三四半期

14

3

570

10月/11月

0

576

合計

55

8

+23

 
   

 

 

  1年遅れで具現した「2010-危機説」 2012年1月掲載
   

2011年の市況の特徴は沈滞そのものの惨憺たるマーケットであったと言える。 換言すれば、表題の通り「2010年危機説」が、1年遅れで具現した年であった言えよう。 但し、オイルショック後のタンカーとは違いドライバルカーもタンカーも共々自律性は維持していると言えよう。
2011年は海運経営にとって教訓の多い年であった。 従って、時間の経過とともに市況の歴史の中に埋没させないで記憶に留め置くべき年であったと言える。
今回は、以上を念頭に置きながら2011年の市況の概略と特性を整理し2012年の留意すべき事項を申し述べる事とする。

   
(一) 2011年の市況の概略と特性
 
1)

市況の推移

(i) ドライバルカーの推移 – 資料1参照
■中国暦の新年の休みの前後に低落した。 これは、ラニーニョによる豪州炭とブラジル鉱石の豪雨による輸出減によるものであり、前年の繰り延べによる新造船の増加とファンダメンタルの悪化によるものであった。 これらのマイナス要因の影響が小さくなった8月中旬頃より市況は堅調となった。その要因に就いては、11年11月号参照願います。 減速とファンダメンタルを過度に悲観的に見ての下がり過ぎの反動とが主たる要因と思われる。

(ii) タンカーの推移 – 資料2参照
■ドライバルカーとほぼ同様な動きであったが、違った点は2月から3月にかけてミニブームがあった事である。 これはリビヤ原油の輸出停止の心理的な面が強かったと思われる。 結果として春先の新造船による供給圧力を減殺する事となった。 ドライバルカーより3ヶ月程度遅れて11月にWS60を超え3月以来の堅調となった。但し、ファンダメンタルが良くなった事を意味するものではない。

(iii)  市場の自律性維持の確認
■小幅ながら、ドライバルカーの8月中旬からの堅調振りと、タンカーの春先の2月〜3月と11月中旬(資料2には表れていない)からのWS60を超える堅調振り示した。 これは、市場の自律性が維持し市況が健全である事を証明するものと言えよう。

 
2)

危機の実態
当初言われていた2010年危機説の背景は北京のオリンピックと上海万博の終了に伴う需要減の予想と発注残の多さから来る供給過剰への恐れから言われたことであった。 この1年遅れの原因はリーマンショックで新造船の竣工を遅らせる動きがあった事、即ち、リーマンショックがガス抜きの役目を一部果たしたと言えよう。危機の実態は下記の通り;

(i) ドライバルカーの経営不振
ドライバルカーの落ち込みが早かった分経営不振の顕在化が早かった。 
■ Korea Lineの経営破綻を手始めに世界最大級のCOSCO社の4隻のバルカーが差し押さえられた(10月号参照)。 この後海南島のGrand China Logistics(GCL)(航空・ホテル・海運を持つコングロマリット)が、香港のJinhui Shipping社に傭船料未払い問題に対してロンドンで提訴された。 更に、同社は、ギリシャ系のVafias family shipping groupにCapeBCの傭船料未払いでコンテナ船を差し押さえられ200万ドル支払った。

■400,000dwtのULOC(China-max)の迷走も市況の悪さに起因する。 入港拒否は中国船主の経営危機対策の一環でもあると言われている。 スポット運賃の低落が大型化による安価な運賃のメリットを減殺しているからである。

(ii) タンカーの経営不振
■11月17日大手の一角を占めるギリシャ系で35隻のタンカーを運航しているGeneral Maritimeが連邦破産法11条の適用を申請した。 今年に入って3件目である。

■ Frontlineがライン早々の資金不足を回避する為、Hermen Holding(Mr. Fredriksen’s private interests)より$505Mの資金援助を受けている。資金繰りの困難さを立証すかの如く、90年代に建造されたSHのVLCC3隻を売船した。 次の数ヶ月以内に11隻のSuez-maxと6隻OBOの何れかが売船されることになろうといっている。

 
    (二) 2012年の留意すべき点
 
1)

造船の受注急減に伴うサバイバル戦の予想

(i) 中国に関しては、鉄鋼業、自動車産業、家電等の主要製造業は過剰設備となっていると言われている。 その中で、最初に顕在化したのが海運不況に伴う造船業である。 従って、この造船不況は、将来発生しそうな過剰設備に伴う中国経済不況時に種々のヒントを与えることになりそうである。 

■ 12月14日の日経でも紹介された通り、ロンドンのシップブローカーのClarkson社は1-10月の受注量は昨年同期の約半分の2,975万積載重量屯(DWT)と落ち込んでいる。韓国に首位の座を1年で返還する結果となっている。

■ 中国造船協会(CANSI)は主要造船会社43社の10社が今年前半受注なしとの事でその深刻度が窺い知れる。

(ii) 韓国に関しては、大手3社の売り上げの半分が船舶以外のオイルリグ等が占めている。 この意味することは生産能力の半分は過剰であることを示していると言える。大手3社以外は、EUの金融不安や韓国のドル不足そして海運不況の影響を受け、中国同様の淘汰の洗礼を受ける事となるかもしれない。

(iii) 日本に関しては、1ドル70円台で最大の苦境に立たされている。360円時代の約5倍と言う円高は努力の限界を超えていると言わざるを得ない。

(iv) 中国が金融緩和に政策を転換した。 造船・海運はこれで需要回復・景気回復とはなり難い。 船舶への投資は主に運賃の水準と先行きの見通しで決定されるからである。

従って、EUの金融不安が船舶ファイナンスを全面的に減少させるとの一方的な見方には賛同できない。 船舶への融資も船主側の「需要」と金融側の「供給」の両側の事情により左右される。 現在は両側とも縮小中であり船舶への融資減は自然な流れである。

 
2)

経営不振の海運企業

経営不振会社で目立つのはオイルショックの地獄を見た経験者がいなくなったタンカーオペレーターと新興の海運企業に多い。 何れも、海運不況の未経験者である。 2011年危機が単年度で終わるとは思えない故、氷山の一角の可能性が高く相当の予備軍がいるものと思われる。経営不振企業の顕在化は市況には大きな悪影響を与える故、要注意である。
尚、余談ながら、他産業の経営破綻は破綻企業の設備は廃棄となり供給減となるがるが、海運の場合は船舶の所有者が変わるのみで供給減とはならない点が問題である。

 
3)

EUと米国経済不安

12月号参照、欧米の不況で世界経済がリーマンショック後の状態に近づいていると言われている。 中国の製造業に影響を及ぼし、ドライバルカーの市況を左右している粗鋼の生産量に影響を及ぼすこととなるのかである。

 
4)

その他

(i) ラニーニヨが続いている。 昨年の太平洋の西端の豪州炭と大西洋の西端のブラジル鉱石の輸出に支障が発生するのかが注目点である。 近海部門に影響があると言われているタイの洪水がラニーニョによるものか専門家に聴きたい所である。

(ii) 中国向け米材(住宅用)の輸送減がHandy-sizeBCの市況を低落させている。 これは中国の不動産バブルが弾けたことを意味し中国経済悪化の先行指標となる可能性があり注目点である。

(iii) 秋口までドライバルカーを支えていたPanamaxBC以下の船型の市況が悪化している。 CapeBCへの水準へ収斂すると言う利益水準化の動きなのか注目点である。

 
   

 

 

  束の間か ドライバルカーの堅調 2011年12月掲載
   

海運は、福島原発事故で原子力の代替としてLNGの需要が高まり、その輸送手段であるLNG船以外は依然軒並み不況の谷間に彷徨している。その中で唯一採算ベースの水面にかろうじて顔を出し入れしているのがドライバルカーである(資料1参照)。このグラフによると、8月中旬より堅調さのきっかけを作ったのがケープサイズバルカー(CapeBC)である。この推移は、現在も低迷中で不況一色のタンカー市況も同様に堅調となる可能性を示唆しているかもしれない。

 今回は、その堅調の背景とそれについて簡単な分析を加えることとする。
   
(一) 船腹需要側
シンガポール発の情報や内外の業界紙を参考にいくつか挙げてみたい
1) 船腹需要側

(i) 輸出を阻害していた豪州とブラジルの洪水の影響が遠のき正常化した。

(ii) 世界第3位の鉄鉱石輸出国インドで粗鋼が増産され、その分鉄鉱石の輸出規制が強化された。

(iii) 中国の鋼材の需要は堅調で、鉄鉱石の増産基調は継続しているものの、鉄鉱石のスポット価格が安くなったことで、中国の国内鉄鉱石の生産量が見直しがなされ、ブラジルから生産余力のあるブラジルからの輸入を増大させた。

(iv) インドと中国の石炭輸入増大傾向の継続。

(D) 東日本大震災からの復興需要。

 
2)

船腹供給側
(i) 燃料油高騰に伴う減速航海により船腹供給量が減少した。

(ii) COSCOの信用不安により440隻強の同社支配船舶差し押さえの危険性から敬遠され供給がタイトとなった(「KAIUN 10月号」参照)。実際に差し押さえの可能性があるのは50隻前後だとみられるが、かなりのインパクトはあったと言えよう。実際11月上旬にCOSCOのハンディマックスがシンガポールで差し押さえられたと報じられている。

(iii) Valeの400ULCCの迷走(KAIUN11月号参照)
 
    (二) 上記の要因について
 
1)

上半期低迷の要因
今年1月5日からのBDIは1621の低水準でスタートした。その後更に悪化、2月4日に1043と今年最低を記録する等、悲惨な状態が続いた。これは、上記Tの諸要因に加えて次の2つの点が考えられる。

(i) ラニーニャの影響によるブラジルと豪州の年初の洪水である。代替ソースがなく輸出減即船腹需要減となった。要注目はラニーニャ再来である。

(ii) Tに記載しなかったが、前年から繰り延べされていた新造船が新年早々に集中的に竣工するという問題があった。従って、新造船による供給増で年初数カ月、市況の悪化が避けられず(資料1参照)、2月にボトムとなった。海運不況時の限定的な新たな季節的要因(@)と合わせて市況軟化の要因の存在を記憶に留めて置くべきである。

(iii) 従って、後半の堅調は前半の下がり過ぎの反動の面もあると言えよう。

 
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後半に堅調をもたらした要因
年初から市場が織り込み済みと思われる要因は除外することとした。後半、どの要因が堅調をもたらしたのかが問題でありその趣旨に従って取上げることとした。

(i) インドの鉄鉱石輸出規制の強化
資源保護と環境保全のため、輸出規制が益々厳しくなっている。ゴア(インドの輸出の60%を占めている)からの輸出は昨年の5445万トンから約1/4減の4000万トンと言われている。この問題は構造的な問題となりつつあり中長期的な観点からも留意項目である。

(ii) 減速運航の効果
乱暴な机上の計算であるが、前提条件を(イ)船舶を停泊と航海の比率を4対6、(ロ)減速するスポット船を全船腹(1267隻)の25%、(ハ)14ノットから12ノットへ減速したとして、総隻数1267隻×60% x 25%×12/14 ×60 %=163隻が供給減となる。 現実的には、スポット船以外では減速していない船舶は相当数あると思われる。但し、不況に伴う貨物(主に原料)の需給緩和傾向から積荷航海を含め減速運航が容認され、この計算値に近づくと思われる。

 
3)

(i) 中国向けの石炭の輸入増が堅調の一要因との説は、インドと中国向けのインドネシア炭とインド向けの南ア炭の場合は航海距離が短く輸送増ほどのトンマイル増とはならないことと、大型船で輸送する必然性が小さい。特に、インドの場合、CapeBCの入港可能な港湾が少ないこともあり、市況には大きなインパクトとはなり難い。

(ii) 鉄鉱石のスポット価格の下落は購入増となるとの考え方は一面正しいかもしれないが、鉄鉱石の需要減に伴う価格の下落もあり、どちらが原因なのかの見極めが必要となる。

 
    (三) 結びとして
 
1) 過剰船腹下での今回の堅調な市況は、市場が自律性を維持し健全性を維持していることを証明するものである。この堅調な市況を本格的な回復と囃し立てることは、調整局面を長引かせるだけで本格的な回復を遅らせることになるだけであり歓迎されない。
 
2)
堅調とはやし立てるほど市況は好転してないが、当分この様な状況が海運市況本来の姿で甘受せざるを得ないと思われる(資料1参照)。換言すれば2003年からの暴騰市況は例外であり正常に戻ったと言えないこともない。  なお、BDIは10月20日がピークで2161、11月から軟化の気配あり、最新の11月11日には1835となっている。今年同様に1月低落の前兆なのか、息切れなのか、今後の推移が注目される。
 
3)

現段階での一番の懸念

(i) EU3番目の大国であるイタリアへ波及した欧州金融不安と米国の財政赤字の問題である。これは何れも大恐慌の再来と言われたリーマン・ショック後の不景気対策の結果である。換言すれば景気対策の効果の限界を露呈したものである。

(ii) それを裏付けするか様に、11月15日の日経が“中国製造業調整局面”の記事が出た。 ドライバルカーを左右している粗鋼生産に関して10月の前年同月比が5カ月振りに1桁となった。その背景は自動車や家電の販売減速を背景とした鋼材の価格が5月のピークより約2割下落したことによる。これらは新規投資の先送りを齎し鋼材の需要減に繋がる恐れがあることである。

(iii) この状況が「欧米の経済不振は中国やアジアに最も影響を与える」との意見通りの展開となりつつあることである。

 
4)
以上で懸念材料を強調し過ぎた嫌いはあるが、ドライバルカーを左右するのは中国の鉄鋼業であることには変りはない。世界経済の不透明感が増す中で中国等の鋼材の価格動向とそれを敏感に反映する鋼材の原材料である鉄鉱石とスクラップのスポット価格の動向から市況を予想することが必要であり、この状況で要求されるのは、攻め一方の豪胆さではなく柔軟性を持った感性である。
 
   

 

 

  迷走が続くValeのULOC 2011年11月掲載
   

ドライバルカーの運賃が堅調である。この要因は色々考えられるが、ケープサイズバルカー(CapeBC)に関しては、表準船型180,000dwtの2隻分に相当するValeのULOCの迷走に伴う不稼働と完工後の引渡し遅延等が船腹供給に微妙な影響与えており8月以降の堅調の一つの要因と考えられる。 
又、400,000dwt(ULCCと対比してULOCと表現した、Vale-maxとも言う)が、計画通り建造されるのか、船型やVLCCへの船種の変更されるのかで将来にも亘り大型船市況全体に影響を与えかねないので見逃すことが出来ない問題である。

今回は、その迷走振りの報告とそれに寸評を加えることとする。 但し、確認の手段がなく推測が入る事が避けられないことを予め承知置き願いたい。
   
(一) ULOCの発注明細
 
1)

社船が21隻、傭船が16隻、合計37隻

(i) 社船が21隻、傭船が16隻、合計37隻

(ii) 造船所は韓国がDaewooとSTX、中国がRongsheng とBohai
と言われている。 37隻と言うことは、濃淡はあるとしても平均的に標準船型の180,000dwtが月々2隻相当分市場に参入することである。
尚、隻数に就いては異説があるが、何れにしても35隻から37隻の間と思われる。

 
2)

迷走の実例
(i) 中国船主へのリセールの動きがあったが、Valeは巨額の差損の確定を回避する為、取り止めとなった。 計算上の差損は下記となる; 
中国のRongsheng建造の船価は12隻で16億ドル、1隻当たり1億3,333万ドルと言われている。 一方、市場(リセール)価格は8,740万ドルと査定されている。リセールした場合の差損は4,593万ドルとなる。 現在のCapeBCの新造船価が4,800万ドルであり、それに近い差損となる。

(ii) 中国の船主協会は、ULOCがCapeBC市況の悪化の一要因だと見ており、その市況対策の一環として中国向けの配船運航は日本等の外国船主による入出港を認めないよう政府に要求した。 即ち、中国の船主協会のメンバーに限定して運航させることである。 10月号で取上げたCOSCOの経営不振が影響を与えていると思われる。
 
    (二) 大型化に走らざるをえないVale
 
1)

鉄鉱石消費地への距離的なハンディキャップ

(i)鉄鉱石の生産条件が同じであれば、船舶の運航距離の差は運賃の差、即ち、CIF価格の差である。 この穴埋めの手段としては、

(ii) オイルショック発生前、タンク又はホールドクリーニングによる海洋汚染が今ほど厳しく統制されない頃は、鉱・油兼用船(中東から英欧向けのオイルとブラジル/アジアの鉄鉱石の双方を1隻で輸送できる)による空荷(バラスト)航海比率の減少による効率配船による輸送コスト(運賃)低減効果があった。処が、

 ・オイルショック後の原油と鉄鉱石の組み合わせ配船は、タンカーの暴落での採算の悪化と原油の輸送契約取得の困難さで姿を消すこととなった。
 ・スエズ運河の再開とその後の拡張で大型船でも空船で通過可能となり、上記のような中東/英欧大陸を結ぶ原油とブラジル/アジア鉄鉱石輸送の組み合わせ配船の妙味が薄れたこと。 即ち、鉄鉱石も原油も航海距離が長いケープ経由でないとメリットがないことである。
 ・タンカー市況がオイルショックの後遺症から脱却した頃から原油と鉄鉱石双方の輸送切り替え時のタンクはホールドクリーニングによる汚濁水の海上投棄が、環境保全の問題で禁止されたことでその時間とコストが大幅に増えたこと。
以上により鉱油兼用船は、一部を除き船主の投資対象から姿を消す結果となっている。

(ii) 豪州から英欧大陸向けの鉄鉱石との組み合わせ配船による効率配船での運賃低減の方法があった。 処が、
太平洋か大西洋の荷物は増加せず、大西洋から太平洋への鉄鉱石の急増でこの組み合わせ配船が埋没してしまった。 即ち、太平洋から空船でブラジルへ航海することが一般的な配船パターンとなった。

(iii) 以上の様な状況の変化により、豪州鉱石と競争するには鉄分(Fe)の含有率の引き上げと船舶の大型化以外輸送コスト(運賃)低減の方法が無く40万重量トンの建造にいたった。
 
    (三) 海運業以外の船舶保有例
 
1) タンカーの場合

(i) オイルショック以前は、オイルメジャーが大量に所有(傭船を含む)していた。 当時はタンカーブームでタンカーに投資することは投資効率がよく、傭船でも高収益を確保できた為である。 オイルショック後は、タンカーの大不況とエクソンバルデス号の漏油事故による高額の損害賠償でタンカー所有の意欲は消滅した。

(ii) 現在は、シッパーである産油国が所有しているのが目立っている。 特に、イランはStorage船(洋上原油貯蔵船)用に10隻以上使用している。

 
2)

ドライバルカーの場合

(i) 今回のドライバルカーのブームで海運業以外でも船舶保有の動きが出るのが投資効率の面で当然である。 従来から所有に意欲があると言われていたValeの37隻に及ぶULOCの大量発注はその顕著な例である。

(ii) 但し、海運業界から見ると慎重さを欠く乱雑な大量発注である。 約50億ドル($1.33x37=$49.2)と言う多額の投資を市場性が低いULCCに投資する場合、無為滞船が発生しない様に少なくとも中国港湾の事前調査と根回しが必要である。更に、これ程の下落は発注のタイミングも悪かったと言える。

 (iii) 本来、シッパーが船舶所有しても運賃の影響は海運業(建造費のローンの返済や傭船料や運航費の支払いで経営破綻の険性大)と比較すると直接的ではなく穏やかである。 それは総販売額の平均価格が上下することで経営を揺るがす大問題となり難い面がある事と生産者であるので所有船腹への貨物手当ての心配がないことで船舶保有に伴うスクを忘れがちで安易に走る危険性がある。今回のValeの大量発注はその誹りを受けても仕方がない。
 
    (四) 結びとして? 3社寡占化でのCIF契約増の弊害
 
1)

海運市場へ作為的に影響を与えることが可能である。 CIFのスポット運賃の値決めは、未確認ながら、BDI又はBCI(CapeBCのIndex)と称するIndex決定されている筈である。 仮に、BCIで決定されているとしたら、シッパー3社の寡占状態でCIFのスポット契約が増えている状態ではCapeBCの市況に作為的に容易に影響を与えることが可能である。 過去の市況高騰の火付け役がこの3社であったケースが再三見られたと言う実績があり、大いに危惧される所である。

 
2)

ValeのULCCの入港の拒否は青島水路の浚渫遅れと言われている。 然しながら、鉄鉱石暴騰に於けるValeの姿勢(金融資本的な発想を強めた)に対する報復説やCOSCOを含めた中国船主へ支援説もある。 他方、ULOCを受注している造船所の支援も必要となる。 何れも、国営企業であり政治の介入は避けられないと思われるが、市場は市場の原理に任せるべきで過度の政治介入は市場の健全性・自律性維持の為にも避けて欲しいものである。

 
3)

過剰船腹下でのValeの37隻ULCCの発注は過大ある。3社寡占で揺るぎがない安定的な鉄鉱石市場と常に流動的な海運市場の相違を痛感しているものと思われる。